テラーノベル
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少しだけ気持ちが落ち着いたところで、今日一日の出来事が頭の中を巡り始める。
特に離れなかったのは、社長室を出たあと、藤代秘書に呼び止められて小会議室で聞かされた、あの話だった。
『小笹さんには、総務部社長秘書課へ異動していただきたいと考えています』
突然の話に、瑠璃香は言葉を失ったのだ。そうしてさらに付け加えられた、
『その上で、新沼社長補佐の専属秘書として、彼を支えていただきたいのです』
という言葉は、二人を引き離した角宮社長なりの配慮なのだと、瑠璃香には思えた。
(晴永さんの……専属秘書)
それはつまり、仕事でも晴永を支える立場になるということで……。
『もちろん、すぐにお返事をいただく必要はありません』
藤代は穏やかな口調で続けた。
『共同会見の準備もございます。来週中にお聞かせいただければ結構です。どうか、ご自身でよくお考えください』
一年間、プライベートでは二人きりでの逢瀬を禁じられている瑠璃香にとって、願ってもない申し出だった。
嬉しくないはずがない。
でも、それ以上に思ってしまう。
(私なんかに、本当に務まるのかな……?)
考えれば考えるほど答えは出ない。
(一人で決めるの、無理だよぅ)
そう思うのに、この話だけは誰にも相談出来ない。藤代から、他言無用だと告げられていたからだ。
晴永の名前まで挙げられた以上、その約束だけは破れなかった。
「うー」
色々考えた挙句、瑠璃香はなまこの前で頭を抱え込んだ。
(藤代さんに、もう一度だけ、本当に私で務まるのかどうかだけお聞きしてから……お返事しよう)
「うん! そうしよう!」
結局最終的にそういう結論に達した瑠璃香は、気持ちを切り替えるようにそうつぶやくと、夕飯の支度をするために立ち上がった。
「あ、その前にお風呂のスイッチ」
給湯ボタンを押してから支度にとりかかれば、タイムロスを防げる。そう思い至って操作パネルへ向かおうとしたところで、テーブルの上に置いていたスマートフォンが小さく震え始めた。
(……晴永さん?)
でも、定期連絡には少しだけ早い気がする。
首を傾げながら画面を見ると、表示されていたのは『木嶋悦子』と言う文字だった。
「悦子?」
(どうしたんだろう?)
瑠璃香は不思議に思いながらも、通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あっ、瑠璃香? 今大丈夫?』
「うん、大丈夫だよ」
電話の向こうで、悦子が少しだけ言いづらそうに間を置く。
『あのね……今日、仁人から聞いたんだけど』
(……ん? 仁人?)
一瞬、誰のことか分からなかった。
けれどすぐ、その名前の主が悦子同様同期の日下のものだと気付く。
(あれ……?)
今まで悦子は、彼のことを自分と同じように〝日下〟と呼んでいたはずだ。
その変化だけで、瑠璃香は思わず口元を緩める。
(もしかして悦子、日下からいいお返事がもらえたのかな?)
この呼び名の変化はきっとそうだ。
以前悦子が日下に長年の想いを打ち明け、彼からの返事待ち中だと言っていたのを思い出した瑠璃香は、思わず口元を綻ばせる。
『瑠璃香、今日、社長に呼ばれたんだって?』
そんな浮ついた思いが、悦子の声で引き戻される。
「え?」
『社長秘書の藤代さんと一緒だったらしいけど……』
「……うん……」
そういえばエレベーターで日下と鉢合わせた。悦子は、日下からそれを聞かされたのだ。
『藤代さんって、社長の筆頭秘書じゃない。そんな人から直々にお出迎えなんて……何があったの?』
日下や悦子の疑問はもっともだと思った瑠璃香は、少しだけ考え込んだ。
相手は今まで酸いも辛いも嚙み分けてきた、仲良しの悦子だ。今すぐにでも本当のことを話したい。
でもそれは、晴永との関係も密接にかかわってくるから、自分一人の判断で決めていいことではなかった。
「ごめん、悦子」
『うん?』
「ちゃんと説明したいから……少しだけ待ってもらってもいい?」
『……うん』
「その代わり……」
瑠璃香は気持ちを切り替えるため、あえていたずらっぽく切り出した。
「その時は悦子も日下とのこと、聞かせてね?」
電話の向こうで、小さく息を呑む気配がした。
『……え? 瑠璃香、なんで……?』
「ふふっ。呼び方!」
思わず笑みがこぼれる。
『あー! もう、気をつけてたのにっ。私のバカっ』
言葉とは裏腹。とても照れくさそうな声が返ってきた。
「ふふっ」
『……分かった。日下とのこと、ちゃんと話すね? でも……そう言うってことは……瑠璃香も恋愛絡みだったりして?』
「えっ!?」
『ふふっ。約束ね? じゃあ、また!』
「……うん。また……」
通話が切れる。
コメント
2件
悦子ちゃん、やっちゃったね(笑)
わあ、今回のエピソードもすごく深かったです…!瑠璃香の揺れる気持ちが丁寧に描かれていて、読んでて胸がぎゅっとなりました。晴永さんの専属秘書の話、彼女にとっては願ってもないチャンスだけど「私なんかに務まるのか」っていう迷いがすごくリアルで…。でも最後に悦子との電話でほっこりした空気になったところ、良かったです。呼び方の変化に気づく瑠璃香、かわいかったなあ。二人の関係性もじんわりきますね。次の展開が気になります…!
鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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latte
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latte
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