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芙月みひろ
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#虐げられヒロイン
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日曜日にゆっくり過ごしたこともあり、麻耶は月曜日すっきりとして仕事に向かっていた。
昨日1日芳也が隣にいることがあまりにも自然だった。
DVDを見ながら、気づいたら眠っていたり、麻耶が起きると、芳也も眠っていたり。
そしてふたりでメニューを見ながらデリバリーでピザを注文したり……そんな休日は麻耶にとって久しぶりだった。
事務所にいくと真っすぐに始のデスクに向かうと、麻耶は頭を下げた。
「館長、ご迷惑をおかけしました。いろいろありがとうございます」
他のスタッフから見れば、日曜日休んだ話だろうと思っただろうが、麻耶はいろいろ食事のことや、心配をかけたことなど本当にいろいろな事を含んでおり、しばらく頭を下げていた。
「もう大丈夫なんですか?」
その声に麻耶も顔を上げると、始はメガネをグイっと上げて麻耶を見た。
「はい。お陰様でもう大丈夫です」
ニコリと笑った麻耶に、「じゃあ、今日からまたがんばってくださいね」」そう言うとまたパソコンに目を落とした。
「美樹さん!昨日は本当にすみませんでした」
席に着くと美樹に声を掛けて、また頭を下げた。
「もう大丈夫なの?やっぱり冬の嫁ちゃんは厳しいね」
顔をしかめると美樹もうなるように言った。
「はい」
「でも治ってよかった。今週はマスコミ向けのイベントの最終調整でいろいろ忙しいし、休館日にはリハも入るしね」
そう、今週の水曜日の休館日はマスコミ向けのイベントのリハが入っている。そこに出ないという選択肢は麻耶には無かったため、風邪が治り麻耶自身一番安堵していた。
「水崎ちょっと!」
主任の奥野に呼ばれ麻耶は、急いで奥野のデスクに向かった。
「これ。ここの進行の件なんだけど」
手渡された当日の進行表に麻耶も目を落とした。
麻耶は当日のマスコミの案内役でもある。
「ここでチャペルからガーデンへの移動の時、マスコミの導線なんだけど」
地図を見ながら奥野は説明した。
「ああ、ここで嫁役のアイリさんとぶつかる可能性ありますよね」
「そうなんだ」
麻耶は少し考えた後、
「どうします?ついたてを入れるか……すこし遠回りになりますがドレスサロンの方からマスコミを回しましょうか?ドレスサロンも見てもらえますし」
地図に指を走らせると、奥野も頷いた。
「では、ドレスサロンの店長にも話しておきます。もしかしたら少し見学……もありえますよね?比較的時間は余裕があるので大丈夫だと思います」
奥野は頷くと、事務所に入ってきた始に声を掛けた。
「あっ、館長。今さっきの件水崎とも確認して」
その言葉に、始もやってきて確認をしていると、ふと始の視線を感じた。
「館長?」
「いえ……」
麻耶は、最近訪れるこの始の間が恐ろしかった。
(すごく大切そうだよな……社長の事。もしかして……俺に惚れるなって……社長とそういう関係とか……ありえないか)
麻耶は自分がとんでもない事を考えていることに気づいて、慌てて頭を振った。
「水崎さん、何を考えています?」
奥野はいつのまにか、違うスタッフの所に行っており、始の声に慌てて麻耶は視線を戻した。
「え?いや。あの……」
「なにか全く見当違いの事を考えていそうですね。まあいいです。一度確認しにいきますよ。当日のルートを」
ため息をついて歩き出した始の後を、麻耶も追いかけた。
「いえ……館長は女性の噂がないのでつい……」
正直にいった麻耶の言葉に、始はこれでもかと顔をしかめた。
「お前……そんな事を思っていたの?」
つい素が出たのであろう、心底嫌そうな顔をした始に慌てて麻耶は言葉を続けた。
「すみません!だって食事の世話をしたりとか……まるで……。あれ?館長は何を思っていたんですか?」
キョトンとして言った麻耶に、「もういいよ。アイツと疑われているとか思わない訳?」呟くように言うと、始は麻耶をじっと見た。
「きちんと面倒みてもらった?」
「面倒って……まあはい。迷惑ばかり掛けちゃった気がしますけど、昨日はずっとゆっくりしてました」
「何をしてたの?」
「えっと。DVD見たり、お昼寝したり。あっ、初めてピザデリバリーしたって言ってました。お金持ちってピザ食べないんですね~」
麻耶の言葉に、始はあ然としたような顔を麻耶に向けていた。
「館長??」
そんな顔の意味が解らないと言った感じで麻耶は、始に顔を向けた。
「ピザ……ね。仲良くやってそうで安心したよ。まあ俺も今忙しいし、アイツも忙しい。水崎さんアイツの事頼んだよ」
「え……私も忙しいですよ。それは認めてくれないんですか?」
「そこかよ……」
呟くように言った始は、
「お前も忙しいと思うけど、頼むな」
「はい!家政婦がんばります。でもどちらかと言うと、私がお世話してもらってる気もするんですけどね」
へへっと笑った麻耶に始はため息を落とすと、
「家政婦とかじゃなくて……」
会話にならないやり取りに、始は頭を抱えた。
(館長……私に何を求めていますか?もしも社長の心の支え……そういうことなら私には無理ですよ……)
「じゃあなんですか?」
時より見せる芳也の瞳を思い出して、麻耶はひっそりと心の中にまた溢れそうになる気持ちを押し込んで笑った。
今日の空もどんよりとした雲がかかっていた。
そんな雲の多い空を麻耶は見上げた。
「館長、雨降りそうですね」
麻耶が始を見ると、むこうからスタッフが歩いてくるのは見えた。
「館長!社長がお見えです」
「今行きます」
始はいつもの館長の顔にもう戻っていた。
病み上がりという事で、みんなから早く帰るように言われ、麻耶は20時過ぎには職場を後にした。
(今日は真野さんの来る日だし、ご飯はあるしこのまま帰れるな)
麻耶はみんなの好意に感謝して、家へと向かった。
帰宅してシャワーを浴びて、キッチンで真野の作ってくれていた肉じゃがとほうれん草のお浸しと白米を準備すると、ダイニングテーブルに座り、昨日途中で眠ってしまい見られなかったDVDの続きを再生した。
DVDを見ながら食器を片付けて、お茶を入れると麻耶はソファに座りDVDに見入っていた。
「ただいま」
不意に後ろから掛けられた言葉に、慌てて振り向くと、芳也がネクタイを緩めるのが目に入った。
「あれ?気が付かなかった。おかえりなさい」
慌てて麻耶は立ち上がり、部屋に戻ろうとしたが、
「どうした?見ていればいいだろ?」
「でも……芳也さん、私がここにいたらゆっくりできないかな……と」
「そんなことないから。ほら、見逃すぞ」
そっと、麻耶の肩を押してソファに座らせて、テレビを促して芳也は柔らかい笑顔を見せた。
麻耶は早くなる鼓動が芳也に聞こえないように、必死に冷静を装いテレビに目を向けたが、まったく内容は頭に入ってこなかった。
(どうしよう……私)
いつのまにかシャワーを浴びたのだろう、着替えてタオルを肩にかけた芳也が当たり前のように、麻耶の隣に腰を下ろし、麻耶は落ち着かなくなった。
「あの……芳也さん」
「ん?」
気だるくビールを飲みながら、テレビを見たまま答えた芳也に麻耶は言葉に詰まった。
「あの……近くないですか?」
「何が?」
少し横に移動した麻耶を見て、芳也はまた距離をつめた。
「このソファ広いですよ……」
「うん」
「私邪魔じゃないんですか?」
「邪魔なら近くにいない」
サラリと言われて、麻耶はどういっていいのかわからず、その場に固まった。
クスクスと笑う芳也の声に、からかわれたことに気づいて、麻耶は芳也を睨み立ち上がった。
「あっ、またふざけましたね!」
「気づいた?お前ずっと同棲していた割に、免疫ないの?」
(社長の免疫がないんですよ!)
そんなこと言える訳もなく、麻耶はじっと芳也を睨んだ。
そんな麻耶の手を芳也がグイッと引くと、座った麻耶の膝に芳也の頭が置かれた。
「ちょっと今日は疲れた。少しだけ癒して」
「ふざけて……」
「ふざけてないから。少しだけ」
もう笑っていない芳也の真面目な声に、麻耶は照れをかくすように、「少しだけですよ」そう言ってテレビに目を向けた。
「ありがとう」
そう言うと芳也は目を閉じた。