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披露宴も無事に終わり、瀬名と合流を果たした理人は、連れ立って近くのバーへと足を向けた。昼間の穏やかさが嘘のように、夜の空気は鋭く冷え込んでいる。 イルミネーションに彩られた並木道を、少し厚めのジャケットを羽織って並んで歩いていると、不意に瀬名が口を開いた。
「なんか、今日の理人さん。いつもと違った雰囲気がしていいですね」
「……まあ、結婚式だったしな。流石に普段使いのスーツというわけにはいかないだろう」
「あぁ、それもありますけど。今日はなんか――格好いいなって、本気で思ったんです」
さらりとストレートに褒められ、理人はわずかに動揺した。直球の賛辞にどう反応すべきか分からず、視線を逸らす。
「……お世辞はよせ」
「酷いな。僕は本当のことしか言いませんよ。……あぁ、早く。その姿の理人さんをぶち犯したい」
耳元に熱い息を吹き込むようにして囁かれ、一瞬で、周囲の空気が凍りついた気がした。
「お、お前の頭の中はそればっかりだな……」
げんなりとした表情を浮かべると、瀬名はどこか妖艶な笑みを深めた。
「理人さんだって、嫌いじゃないくせに」
「……」
この男の本質はこちら側なのだ、と改めて突きつけられる。 普段は穏やかで無害そうな表情の下に、飢えた獣を飼っている。その獣が顔を覗かせる瞬間に、理人はいつだって抗いがたいゾクゾクとした感覚に襲われる。だが、それを表に出すことはしない。そんなことをすれば、この男を喜ばせるだけだと知っているからだ。
「さて、どうだろうな……」
適当に言葉を濁して歩みを進めた瞬間、不運にも、可愛い美青年を連れた間宮とばったり出くわした。 もう二度と会うこともないと思っていた相手との、早すぎる再会。気まずさに理人が硬直していると、間宮の方が先に狼狽えだした。
「な、な……なんでお前がこんなところに……!」
間宮は狼狽しながら理人を凝視し、次にその隣に立つ瀬名へと視線を移した。
「っ……さっきとは違う男だと……!? しかも無駄にエロいイケメンだし……!」
愕然とした表情でワナワナと震えだす間宮。
「ハハッ、そうか……鬼塚理人! どうやらお前は、俺の想像を絶するような乱れた関係を築いているようだな!」
(……コイツは一体何を勘違いしているんだ)
まさか、本当に自分と透がああいう関係だと思っているのか。 理人が呆れていると、瀬名が怪しげな、そして明らかに不快さを孕んだ表情で二人を見比べた。
「……理人さん。この人、何なんですか?」
間宮は瀬名の放つ威圧感に一瞬怯んだが、すぐに体勢を立て直すと、鼻息荒く瀬名に詰め寄った。
「ふっ、そこのイケメン君……いいことを教えてやろう。その男は、さっきまでデカいクマ男と浮気をしていた!」
「……あ?」
ビシッと指をさされた瞬間、世界から音が消えた。 理人の額に青筋が浮かぶ。
「おい、てめぇ……何ふざけたこと抜かしてやがる」
ドスの効いた声で凄んでやると、間宮は「ひっ」と悲鳴を上げて連れの青年の後ろへ隠れた。怒りを通り越して、救いようのないその情けなさに呆れ果てる。
だが、そんなことよりも問題なのは――。 唐突に、腕を強い力で掴まれた。
「……理人さん。浮気なんて、何かの間違いですよね?」
地を這うような低い声。腕を掴む指先に、ミシリと骨が軋むほどの力が込められる。痛みで眉を寄せ、理人は瀬名の顔を覗き込んだ。その瞳は仄暗く澱み、光を失っている。
「……おいおい、まさかと思うが、あんな戯言を真に受けてるんじゃないだろうな」
冷ややかな視線を浴びせられ、理人は思わず言葉に詰まった。
「……まさか本当、とかじゃないですよね。いや、でも……理人さんなら、あり得るのかな……」
瀬名の表情は一見穏やかだが、眼球だけが氷のように冷たく、逃げ場を許さない。
「おい、誤解だ。俺は何も――」
「帰りましょう、理人さん」
有無を言わさぬ物言い。瀬名は理人の言葉を遮るように言い放つと、冷徹な微笑を浮かべた。
「……話は部屋で、《《じっくり》》と聞いてあげますから」
理人は背筋に走る強烈な悪寒を感じた。 今夜は、ただの「結婚式の余韻」では終わらせてもらえない。そんな確信に近い予感に、理人の心臓は不吉な鼓動を刻み始めた。