テラーノベル
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二日間の休みも明け、俺の体はまた仕事モードに切り替わる。
今日は一日中パソコンに齧り付いて編集作業をする予定だったのだが、16時頃になって途端に行き詰まった。少し単調な作業に眠気を覚えたところで、俺は首を振って立ち上がった。
息抜きに、休憩がてら外を散策しながら、風景や植物の写真を撮っていく。
カメラマンという職業を生業としているが、これはほぼほぼ趣味に近い。
ただシャッターを押すのではない。
明るさと暗さのバランス、撮りたい対象とその周りにある風景との対比、収めたいものの中に入り込まないように、余計なものをできるだけ省けるような立ち位置を見つけること。
その全てに気を遣いながら、最高の一枚を生み出していく。
楽しさと難しさの狭間に立った時、俺はカメラというものに魅了されてこの道に進んだ。尚且つ、この場所には幸せが溢れている。
俺は、毎日たくさんの幸福をいただいたお腹いっぱいの状態で、自分の情熱を傾けることができるこの仕事に就けて、本当に良かったと思う。
今日はどんな良いものが撮れるだろうかと辺りを見回しながら、俺は一昨日のことを振り返る。
俺はやはり、村上くんと以前どこかで会ったことがあるようだった。
一昨日一緒にご飯を食べた時、村上くんは当時どんな風に俺たちが会ったのかの詳細については答えなかった。彼が何故言わなかったのか、その理由はよく分からなかった。
「そんなに大したことじゃない」
そう言っていたが、俺はその時の村上くんの表情が忘れられなかった。
覚えていないことから来る申し訳なささのせいなのだろうか。
俺には、村上くんのその顔が「思い出して」と叫んでいるように見えた。
村上くんのためというのはもちろんのことだが、自分のためにもちゃんと思い出したかった。
しかし、ヒントのひとつも無い状態では、さっぱり見当もつかなかった。
一昨日村上くんと別れてからと昨日一日中と、あれこれ記憶を辿ってみたが、それでも悲しいほどに全く心当たりがなかった。
今も、自分のこれまでの出会いについて思い出せることの限りを尽くしているがやはりダメだった。
「んんん…何年くらい前の話なんやろうな…」
独り言が、徐々に伸びていく自分の影の中に溶け込んでいく。
前を向くと、遠くの方で夕陽が段々と沈み始めていた。
少しでも大きな夕陽を捕まえてフレームの中に閉じ込めたくて、俺は少し急ぎ足で、淡くオレンジ色に照る灯りに向かって行った。
近付けるだけ近付こうと足を進めて、足を踏み入れられるギリギリの位置を探していると、そばに置いてあるベンチに座る人影が目に留まった。
うとうとと船を漕ぐその後頭部に見覚えがあって、ベンチを半周するようにその人の正面へと回り込んだ。
「…やっぱ村上くんか」
カクンカクンと沈んでは、また上ってくる頭の動きがなんだか面白くて、俺は思わずシャッターを切った。
その直後に大きくガクンと形の良い頭が胸近くまで落ちてきて、村上くんの目が開いた。
「…ん、、ぃてて、、」
その衝撃で少し首を痛めたのか、村上くんはうなじを押さえながら、三度ゆっくりと瞬きをした。
「おはようさん」と声を掛けると、村上くんは視線を持ち上げて、俺と目を合わせる。
瞬間、村上くんは怒られるのを待つ子供のような顔になった。
橙色に染まって照らされた表情が翳る。
その陰影にどこか懐かしさを覚える。
「ぁ、、ごめんなさい…」
そう謝る村上くんの手には、自己啓発本と俺が就職祝いにと贈った手帳とが握られていた。
俺は村上くんの隣に腰掛けながら口を開いた。
「毎日頑張っとるんやから、そら疲れるわな」
「怒らないんですか?休憩中とは言え、居眠りしてたのに…」
「ん?休憩時間は何しても自由やろ。村上くんがそうしたいんやったら、好きに過ごしたらええよ」
昔、こんなやり取りをしたことがあるような気がした。
何年も前のことで、はっきりとは思い出せなくて、記憶に靄がかかっている。
村上くんは、怒られなかったことに拍子抜けしたのか、はたまた別の理由があってか、驚いたように目を見開いていた。村上くんのその反応は、果たして俺の記憶を呼び戻す手掛かりになり得るものなのか、判断に困った。
俺の中で不思議な懐かしさが湧き起こって、その源泉に触れようと踠いていると、村上くんは俺の前に立って、大きく開けていた目を切なそうに細めてから言った。
「写真、撮ってくれませんか」
村上くんの突飛なお願い事に、俺は少し戸惑ったが、特に断る理由もないので、「ええよ?」と返事をしてから、立ち上がって右目でファインダーを覗いた。
村上くんは体の重心を右側に掛けながらポーズを取った。半歩前に出た左足は、村上くんのスタイルの良さを際立たせていた。
「やっぱり背高くて格好ええなぁ、モデルにぴったり……ゃ……」
シャッターを切っていく音が、小さくカシャ、カシャ、と鳴る。その度に表情や体の向きを変える村上くんをレンズ越しに見ながら、思ったままの言葉が口から出た時、俺の頭の中で、俺の「あれ?」という声が聞こえてきた。
これも前に言ったことがある気がした。
舘の店で、村上くんに会った時よりも、もっと前に。
夕焼けが淡く、優しく村上くんを包み込んで、その光が反射して白む。
形よく整えられた植木と、式場の雰囲気に合わせてあつらえられているクラシカルなベンチの前で、腰に手を置きながら、寂しそうに微笑む村上くん。
その構図に、また不思議な懐かしさが込み上げる。
こんな写真を、ずっとずっと前に撮ったことがある。
思い出せなくても、俺の体が、俺の感覚が、この子を覚えている。
フレームにこの子を閉じ込める音が頭に響く度に、記憶の明度が上がる。
この子と俺を繋ぐものは、写真の中にある。
俺がそう気付いた瞬間、村上くんは、俺の朧げな思い出のかけらが少しずつ集まってきていることを察したのかどうか、それは定かではなかったが、優しく笑った。
穏やかなその目が、ファインダーのガラス一枚を隔てて、かち合う。
慈しむように細められたその三日月型の瞳に、俺の胸がドクンと鳴った。
指先がびりびりと痺れて、背中まで駆け巡っていく。
シャッターを押す指に力が入らなくなっていくような感覚がして、俺は脱力したようにカメラを下ろした。
村上くんはゆっくりと俺に近付いてきて、「そろそろ戻りましょうか」と言って微笑んだ。
村上くんが寂しそうに笑うたびに苦しくなる。
思い出してあげたい。
きっとあと少しで、全部かけらが揃う気がするんだ。
もう少しだけで良いから待っていてほしい。
その身勝手なお願いは言葉には出せなくて、俺は村上くんの言葉に、ただただ無言で頷くばかりだった。
俺はその後、定時ぴったりに仕事を切り上げて、大急ぎで帰宅した。
リビングに入るや否や、パソコンを起動して保管していたSDカードを片っ端から漁っていった。
一番古いものから差し込んで、中のファイルを見ていく。
友達の写真や風景の写真ばかりで目ぼしいものは見つからず、今懐古したいものとは別の思い出が蘇るばかりだった。「ちゃう、今思い出したいんはこれやないねん」と頭の中でツッコミながら、次々にチップを挿しては取り出してを繰り返していった。
自分のカメラで撮った仕事とは関係のない写真たちは、こうやってSDカードに保存して取っておくようにしていた。
日常生活の中で、頻繁に振り返って見ることはあまり無いのだが、自分が写したものを、そのまま消してしまうのはなんだか寂しくて、容量がいっぱいになっては、新しいカードにまた新しい思い出を詰め込んでいった。
花や建物の写真が続き、なかなか村上くんに辿り着けない状態にもどかしさばかりが募っていく。結局そのSDカードにも手掛かりはなく、俺は小さくため息を吐きながら取り出して、次のチップを差し込んだ。
読み込みが完了して、画面の中に浮かび上がる黄色いファイルを開く。
四角形が規則正しく画面にに並ぶ。
俺がこれまでに撮ってきたものは、今の時間から一枚一枚じっくり見ていくには膨大な量だったから、まずはざっくりと小さなプレビュー写真として見られるようにして確認していく。
マウスをゆっくりと下にクルクルと回していくと、俺の友達では無い、誰かを写した写真が30枚ほどあって、思わず繰っていた指を止めて、そのデータを一番最初から拡大して見ていった。大きく、パソコンの画面いっぱいに広がったその写真が目に飛び込んできた瞬間、俺は息を呑んだ。
顔に少しの幼さを残してはいたが、学生服に身を包んだその青年は、紛れもなく村上くんだった。
「………ぉった……みつけた……」
画面の中の村上くんは、ベンチの前で少し気恥ずかしそうに、でも楽しそうにポーズを取っている。今日、束の間の休憩時間に撮ったものと、そのアングルはとてもよく似ていた。
心から楽しそうに笑う顔、カッコつけるようにキリッとこちらを見つめる瞳、年相応にはしゃいでブレた手足。
今まで一つも思い出せなかったものが、写真を見た瞬間に、パイプが破裂してその隙間から水が飛び出してくるように、勢いよく噴き出してくる。
あの日、幸せに溢れた場所で、ただ一人、つまらなさそうに目を伏せる青年がいた。その子の今日という一日が、1分でも1秒でも楽しいものになったらと思って、俺は思わず声を掛けたのだった。
とは言え、俺にできることは少ない。
だから、せめてもで、俺はその子に了承を得てからその子の写真を撮った。
一枚、また一枚とその子がカメラの中に詰まっていくたびに、その子の表情は解れていった。俺がいつもの癖で「その顔カッコええで!」などと反応するたびに、その子は甲高い声で楽しそうに笑ってくれた。
時間を忘れるほど俺も楽しい時間を過ごさせてもらったことを、今になって思い出しては少し悔しくなった。
言い訳にしかならないが、その後すぐに、その時働いていた式場が閉業になった。俺は新しい就職先を見つけなければならなくなった。
慣れない新しい職場で、初めは目の前の仕事にいっぱいいっぱいだったこともあって、いつの間にか、こんなにも幸せだった記憶にさえ蓋をしてしまっていたことが悔やまれた。
幼い村上くんをパソコンの画面越しに眺めながら、もうひとつ思い出したことがある。
確か、村上くんは、何がきっかけだったのかはわからなかったが、俺と別れる間際に、「僕もこの仕事がしたい」と言ってくれた。
なかなか大変な仕事ではあるが、俺はそう言ってくれたことが嬉しくて、目一杯カッコつけた。今、振り返ってみると結構恥ずかしいセリフだ。
「いつかまた、君とここで会えんの待ってんで?」
そこまで思い出して、俺は頭を抱えた。
だって、その後、俺は村上くんに背を向けて歩き出して、曲がり角を曲がった途端に従業員入口の近くに積んであった空き瓶が入ったビールケースに躓いて転んだのだから。
慣れないことは言うもんじゃないなと思いながら、俺は周りに誰もいないことを確認して、逃げるように事務所に戻った、という余計なことまで思い出してしまった。
「…決まりきらんかったなぁ……」
俺は、パソコンの前で顔を両手で覆いながら、恥ずかしさを紛らわせるように小さく呟いた。
それでも、今の俺の気持ちは温かかった。
村上くんは俺に会いに来てくれたのだろう。
名刺も渡していなかった。
名前も名乗らなかった。
式場も無くなってしまった。
きっと偶然ではあったのだろうが、手掛かりも何もないまま、村上くんは一心に俺を追いかけてきてくれた。
“うれしい”
四文字が胸に広がっていく。
どきどきする。
「ロマンスやん……」
単純なくらい、俺の全部が一瞬で村上くんに染まっていく。
頭の中があの子で溢れていく。
好きが少しずつ生まれていく。
しかし、こんなに簡単に自分の気持ちがコロっと変わってしまって良いのだろうか、という不安も浮かぶ。
確実に自分の意識は変わり始めていて、明日からどんな顔をして村上くんに会ったら良いのか分からなくなる。
恋と理性の真ん中で、おろおろと惑っていると、ピコンとスマホが鳴った。
画面を確認すると、しょっぴーから連絡が来ていた。
「式場の予約したいんだけど」
シンプルにただ一言だけ送られてきたそのメッセージに、
俺は「おおおぉっ!!」と声を上げた。
ただ手続きをするだけではつまらない。
しっかりとおもてなししてあげたかった。
しょっぴーの職業のことを考えると、通常営業日にそれをするのは避けたい。
俺がこの突然の嬉しい知らせに、更なる幸せを上乗せしたいとあれこれ考えを巡らせていると、またスマホがピコンと鳴った。
視線を端末に戻すと、村上くんからもメッセージが来ていた。
「向井さん、お疲れ様です!しょっぴーが結婚式するって連絡くれました!僕、休館日にオーナーとしょっぴーだけの会場見学会をしてあげたいです!」
文面だけでも、村上くんが嬉しそうなことが伝わってくる。
今思っていることが、俺も村上くんも同じだったことにまた嬉しくなる。
俺は、村上くんのメッセージに顔を綻ばせながら返信した。
「休み振り替えられるか?次の休館日、出社に変えて、目一杯おもてなししたろ」
遂にしょっぴーと舘の会場見学の日がやってきた。
村上くんはこの日を迎えるまでにたくさんの準備をしていた。
一つ一つの部屋の紹介をわかりやすく伝えるための文言を全部紙に書いて何度も読んで覚えたり、自分で調理担当の人に、休館日に出勤している人に試食を二人分作って欲しいと頼みに行ったりしていた。
二人の結婚式はいつが良いか、なんてことまで考えて、日柄の由来や、その意味についてまで調べていた。
村上くんを見ていていつも思うが、この子はとても頑張り屋さんだ。
妥協をしない。
自分がしたいと思ったことは、とことん突き詰める。
特に今回は自分がお世話になった人だからと、一層気合いが入っているように見えた。
そういうところが格好いいと素直に思った。
駐車場でしょっぴーと舘が来るのを二人で待っていると、一台の車が中に入ってきて、一つの区画の中で停まった。
中からよく知る顔が二つ出てきた瞬間、村上くんはその対象に向かって駆け出していった。
俺も、彼らに久々に会えたことが嬉しくて、村上くんの後に続いて二人の元へ駆け寄った。
村上くんの先導で、次々に式場の中を回っていく。
練習通りにしっかりと説明出来ていることに、村上くんは嬉しそうな様子だった。
順調に会場を歩いて回って、披露宴会場の中で俺は二人の写真を撮った。
珍しく緊張した様子の舘と、癖になってしまっているのかアイドル顔を作ってこっちを見るしょっぴーが、フレームの中に並ぶ。
いつも通りの二人を写したくて、俺はこの場のシュールさを壊すように声を上げた。
「だて、固いわ!もっと笑ってや!しょっぴーは雑誌の撮影やないんやで!?キメすぎや!」
俺のツッコミに二人は謝りつつも、次の瞬間にはしょっぴーと舘だけの世界に入り込んでいった。自然で、いつも通りの二人の感じがよく出ている。
お互いだけを見つめ合いながら、しょっぴーも舘も幸せそうに優しく笑っていた。
その瞬間を写真に収めて、俺は二人が帰る前にそれを渡せるようにと、編集のために一度事務所に戻った。
しばらくすると、村上くんも事務所に戻ってきたので、声を掛けた。
「今は試食終わったくらいか?」
「はい!しょっぴーが空き状況を知りたいって言ってたので、調べに戻ってきました」
「ほうか、いつが良いって言うとった?」
「来年の6月2日だそうです」
「ほぉん」
「えっと、えっと…ぁ、空いてる!よかったぁ…!この日の日柄は、、わ!大安!それに一粒万倍日だ!すごい!!」
「そらええな!」
「はいっ!…ぇえっと、、一粒万倍日の由来は…ふむふむ、、ぁ、そうそう。そうだった」
勉強していた日柄のメモを見ながら頷く村上くんが手に持っているのは、俺が就職祝いに渡した手帳だ。
この間もだったが、村上くんがこうやってどこに行くにも何をするにも、この手帳を持っていてくれているのが嬉しい。
おすすめの手帳だからとこれを選んだが、今になって俺も現在進行形で同じものを使っていることに気付いた。
一番使いやすかったもの、ということは、もちろん俺も愛用しているものであって、つまりはお揃いになるのだ。
自分のそそっかしさ、天然さに自嘲気味に笑いつつ、手帳を凝視しながらブツブツと呪文のように言葉を唱える村上くんに尋ねた。
「それ、いつも使ってくれとるんやね。おおきに、嬉しいわ」
「!はいっ!僕の宝物です!」
村上くんは満面の笑みでそう答えると、パタンと手帳を閉じてから、
「いってきます!」と言って、しょっぴーと舘が待つサロンスペースへと戻っていった。
俺は少し熱を持った頬を、冷たい指先で冷ましながら、村上くんには聞こえていないであろうくらいの小さな声で「いってらっしゃい…」と返すばかりだった。
会場見学も試食も、手続きも終わったところで俺もサロンに足を運んだ。先ほど現像した写真を額縁をつけた状態で渡すと、二人とも嬉しそうに笑ってくれた。
「めっちゃ盛れてんじゃん」なんてしょっぴーは言っていたが、照れ隠しであることはお見通しだ。その証拠に、口元がニマニマ緩んでいる。
なんともわかりやすいが、そこに触れるとしょっぴーは半ギレすると経験上知っているので、あえて「そこなん?!」とツッコむだけにしておいた。
二人がまた車に乗って帰っていくのを、村上くんと並んで見送る。
車が駐車場から車道に出ていくところまでを見送って、俺は前を向いたまま村上くんに「お疲れ様、よぉ頑張ったな」と声を掛けた。
村上くんはやり切ったと言うように、大きく達成感を含んだため息を吐いて、「ありがとうございました!」と俺にお辞儀をした。
視界の端で村上くんの顔が上がったのを確かめてから、俺は言葉を続けた。
「なぁ、村上くん」
「はい!」
「俺な、ほんとはめちゃめちゃ泣き虫なんよ」
「…?はい」
「それに、かっこよく誰かを引っ張ることもできひん」
「はい」
「逃げてばっかの弱虫やねん」
「、、向井さん…ぇっと……」
「それでも、好きって言うてくれるか?」
「へ?」
「こんな俺でも、好きなままでいてくれるか?」
「む、むかいさん…それって……」
「“またここで”、俺に会いにきてくれてありがとうな。俺も君が好きんなってしまった言うたら、笑うか?」
決して、しょっぴーと舘の幸せそうな空気に当てられたわけじゃない。
心からの想いだった。
それに、言うなら今しかないような気がしたんだ。
自分の中に芽生えたこの気持ちが久しくて、この子の目を見ながら伝えるなんて、情けないけれど、怖くて出来なかった。
本当の自分を曝け出すことで、この子がどんな反応をするのかさえ、出来れば知りたくなくて、逃げ出したくなるのをぐっと堪える代わりに、俺は村上くんの相槌も待たずに言いたいことをずっと喋り続けた。
一方的で身勝手で、そんな俺の言葉に戸惑っている村上くんの様子を横目で見ては、申し訳なささで胸が痛む。
言いたいことを最後まで言い終えた途端、泣きそうになる。
怖い。
今まで、この子の前で目一杯格好つけてきたメッキは、もう全て剥がれてしまった。
村上くんも離れていってしまうのだろうか。
好きになってしまった後で、「思ってたのと違った」は辛いなぁ。
なんて、村上くんの答えも聞かないまま、勝手に想像する自分の思考が止められない。
いやや、止まってや。
泣きたないねん。
最後は笑ってたいんよ。
お願いやから、これ以上変なこと考えんとって…!
魅力も男らしさも、何もないありのままで、俺は村上くんの方へ体を向けた。
村上くんは、全てを赦している神聖な者のような微笑みを浮かべながら、
「ずっとずっと変わりません。ずっと会いたかった」
と言って、俺を優しく抱き締めてくれた。
会いたい君と、曖昧な俺。
怖がりな俺と、まっすぐな君。
過去で交わった時間が、今もう一度重なっていく。
暗闇で迷っていた俺のところに舞い降りてきてくれた君はきっと、
俺の、俺だけの天使。
To Be Continued…………………………..
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かっこいいラウちゃんなのに天使って表現するところがもう…ラウって感じ!((伝われ!!!🥹🤍🧡 ラウこじおめでとう🫶🏻🫶🏻✨