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隷と狐の共同生活_それは、絶対零度の規律と、氷漬けの反抗が常に衝突する日常だった。
隷の厳格な指導は、朝の登校から始まった。
「守葉、この学園では始業30分前には自席に着くのが最低限の規律だ。お前は遅れている」
廊下で守葉狐を待ち構えていた隷は腕時計を見ながら冷たく告げた。
隷自身はいつも始業の一時間前には生徒会室で完璧に仕事を終えている。
守葉は、いつもの狐の仮面越しに、感情の読めない視線を返した。
「遅れているとは、何を根拠に申されるか。俺は今、時報と共にこの場に着いた。其方の定める規律は、学園の時計が鳴る前に席に着くこと。であれば、俺は規律違反などしておらぬ」
守葉の口調は、冷徹な理屈と、どこか平安時代の貴族を思わせる古風な言い回しが混ざり合っている。
「屁理屈を捏ねるな。余裕をもって行動するのがクロノス学園の基本だ。その仮面のせいで、周りの生徒がお前に怯えている。規律は秩序を保つためにある」
「俺の仮面が、周りの者に畏怖を与えるか。結構なことではないか」
守葉は仮面の下で、わずかに口角を上げたように見えた。
「畏怖とは、其方が生徒会長として最も欲しているものであろうに。俺がその重荷を分け合ってやっているのだ。感謝こそすれ、叱責される謂れはない」
隷はこの生意気な転入生に心の底から苛立った。
自分の冷徹さを肯定し、しかもそれを自分の功績と主張する。
「黙れ。これは感謝すべきことではない。お前には指導が必要だ」
隷は手から発生させた小さな氷の刃を、守葉の足元の床に突き刺した。
カキン、と硬質な音が響く。
「この刃が、次にお前の足元ではなく、お前の頬をかすめることのないよう、弁えて行動しろ」
守葉は一歩も引かず、代わりに黒く濁った魔力の霧を床から這い上がらせた。
霧は隷の放った氷の刃を覆い、瞬く間に熱を奪い、刃をただの水へと戻してしまった。
「指導とは、力を見せつけることか。ならば俺も応じよう。俺の魔法は、其方の冷たさを容易く溶かす。それに、俺は遅れてはいない。さぁ、教室へ行くぞ、世話係殿」
守葉はわざとらしく隷を「*世話係殿*」と呼び、軽やかにその横を通り過ぎていった。