雲一つない青空。
日曜日の今日、目一杯おしゃれして街中を歩いているあたし。
ショーウインドウに映った自分の姿に、
「はぁ…」
深い溜息をつく。
久しぶりのデートで、気合いを入れてお洒落して、浮かれて家を出たのが約30分前。
でも、彼とはほんの数分前に別れてきた。
原因は彼の浮気。
待ち合わせ場所の公園に行ったら何故か別の女の人が居て鉢合わせ。
あろうことか、彼はあたしとの約束を忘れダブルブッキングをしていたのだ。
当然、ムカつくからおもいっきり殴ってやった。
彼の情けない顔と女の人の怒りに満ちた顔が酷く印象に残った。
彼とは友達の紹介で知り合い、同い歳で、気が合って何でも分かり合える、そんな関係だった。
浮気するような男だったけど、本気で好きだった、からなのかもしれない。
こんなに悲しく思うのは。
しかし、殴って勢い良く公園を後にしたものの、思い出すだけで未だ怒りが治まらない。
(…浮気なんて、本当サイテー!!)
思えば、過去にも浮気されて別れた経験があるあたし。
別れた時、次こそは絶対いい人に出逢うと意気込んでいたのに、その結果がこれ。
つくづく男運の無い自分。
「見る目ないなぁ、あたし」
言葉にすると、余計に虚しくなる。
(あたしを愛してくれる人に出逢いたい)
そんな願望がより一層強くなる。
周りを見渡せば、手を繋ぎ幸せそうな顔で歩くカップルの姿が目に入る。
(いいなぁ…)
そう思ったら、涙がこみ上げてきてしまう。
あたしの心とは裏腹に憎らしい程の青空に目を向けて、
「雨…降らないかな…」
そう呟いた。
(だって、雨が降れば今ここでも泣けるじゃない?泣き顔なんて、誰にも見られたくないもの… )
零れ落ちそうになる涙を必死に我慢し、帰ろうとした、その時
「お姉さん、雨降って欲しいの?」
突然話し掛けられた。
「え?」
さっき呟いた独り言、聞かれてた…?
振り向き、話し掛けてきた相手を見ると、
(…あれ、この子、確か…?)
そこに居たのはあたしが住むアパートの大家さんの高校生のお孫さんだった。
「雨、好きなの?」
金髪の彼。
けれど、不良…という感じでは無く、爽やかなイケメン男子…と言った感じ。
あたしの事を知ってか知らずか、屈託の無い笑顔を向けながら聞いてくる。
「あ、いや、別に好きとかそういう事じゃ…」
「お姉さん、うちのアパートに住んでる人でしょ?」
「あ、うん。 羽石(はねいし)実桜(みお)です」
「俺は 谷次(やつぎ)陸(りく)。実桜さんの願い、叶えてあげるから少し時間くれない?」
「え?」
突拍子の無い彼の発言に戸惑うあたし。
「い、いや、その…」
新手のナンパ?なんて思いながら一歩後ずさると彼は、
「いいでしょ?損はさせないからさ」
あたしの手を取り、
「行こう」
「え!?あ、 ちょっと!?」
半ば強引に手を引かれ、振りほどく事も出来ないまま彼に付いていくことになった。
街をはずれて住宅地へやって来たあたし達。
あたしの住むアパートを通り過ぎ、すぐ横にある一軒の家の前で止まった。
「さ、上がってよ」
「………」
結局、振り払えなくてここまで来てしまった。
まぁ、アパートに帰るつもりだったからそのまま付いては来たけれど、彼は自分の家に上がれと言うのだ。
何を考えているのか、笑顔を絶やさない彼の表情から読み取る事が出来ない。
「どうしたの、入らないの?」
あたしが黙って立ち尽くしていると、不思議そうな顔をして問い掛けてくる。
どうしたのって、この状況で家に上がれっていう事に無理があるでしょ?
「いや、その…」
文句の一つも言いたいところだけど、あえて言葉を濁すと
「遠慮なんてしなくていいから」
見当違いの返答が返ってきた。
(いやいや、遠慮とかそういう問題じゃなくって!)
…最近の高校生ってこういう流れで普通に家に上がったり出来る訳?
あたしには理解出来ないわ…ここは適当に理由つけてアパートに戻ろう!
そう決意したあたしが再び口を開きかけると
「あ、あたしやっぱり…」
「大丈夫。何もしないよ?」
まるであたしの心を見透かしたかの様に不敵な笑みを浮かべて彼はあたしの言葉を遮った。
「なっ!あ、あたしは…別に…」
「あれ?違った?そういう心配してるのかと思った」
「そ、それは…!」
………あたしは高校生に遊ばれているのだろうか?それとも馬鹿にされてる?
何だか彼には全てお見通しの様な気がして凄く恥ずかしくなり、あたしの頬は次第に熱を帯びてくる。
そんな中彼は、
「さっきも言ったけど、実桜さんの願いを叶えるだけだよ」
そう、意味深な言葉を口にして自宅の門を開く。
「そのあたしの願いって?」
さっきも気になっていた彼の言葉。
その意味を聞いてみるも、
「それは言えない。とにかく心配しないでよ。家に二人きりって訳じゃないし、じいちゃんは出掛けてるけど、ばあちゃんは居るから」
あたしの問いに答えてはくれず、それでいて諦める気のない彼。
(少し強引で読めない所があるけど、悪い子じゃないみたいだし、彼の言うあたしの願いっていうのも気になるし…)
悩みに悩んだ末…
「…少しだけ、お邪魔します…」
あたしはそう答えたのだった。
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