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「ありがとう。はるみん……。君がそんな風に思ってくれていたなんて、知らなかったよ」
蓮が穏やかな微笑みを向けると、東海はさらに顔を赤く染めた。何か言い返そうと口をパクパクさせるが、言葉にならない。周囲のニヤニヤとした視線に耐えきれなくなった彼は、ついにプイとそっぽを向き、照れ隠しのように小さく舌打ちをした。
(素直じゃないところは相変わらずだな……)
「でも、多分だけど……。今ここで僕が取り乱したり騒いだりしたら、それこそ犯人の思うツボだと思うんだ。一度引退した身だし、僕を快く思っていない人がいるのは知っている。昔は尖っていたから、正直心当たりがありすぎて絞り込めないけど……」
蓮は一度言葉を切り、全員の目を真っ直ぐに見据えた。
「僕は、獅子レッドを降りるつもりはないよ。この仕事が、ここにいるメンバーが大好きだから。誰がどれだけ邪魔をしてきても、僕は退かない。……もし、僕じゃなく他のメンバーが狙われていたら、その時はタダじゃおかないけどね」
その揺るぎない宣言に、東海もナギも、圧倒されたように黙り込んだ。
「ですが、これからどうするんです? 照明の落下なんて、明らかに一線を越えた警察案件ですよ」
弓弦の冷静な指摘に、場は再び沈黙に包まれる。
「……警察への報告は兄さんに任せよう。僕らは下手に騒ぎを広げず、指示に従って自宅待機すべきだと思う」
蓮の声には、先ほどよりも強く確かな響きがあった。その言葉に全員が深く頷く。だが、胸の奥の不安が消えたわけではない。犯人はまだ、この平穏を壊そうとどこかに潜んでいるのだから。
「警察に公表する気はない」
背後から響いた冷徹な声に、一同が弾かれたように振り返った。そこには、心身ともに消耗しきった表情の兄・凛が立っていた。
「御堂さん、どういうことですか? 事件性が高い以上、捜査してもらった方が……」
「……面倒なことが起きたんだ」
「面倒なこと? 僕を降板させろっていう脅迫文のことなら、さっき聞いたよ」
「いや、違う。それとは別件だ……」
凛は苦虫を噛み潰したような表情でナギと蓮を見た。そして重い溜息とともに、二人以外のメンバーへ視線を向ける。
「すまないが、小鳥遊君と蓮以外は戻ってくれ。状況が落ち着くまで連絡を待っていてほしい」
「どうしてですか! なんでオジサンとナギだけ……。俺らだけ蚊帳の外なんて、そんなの嫌です!」
食ってかかる東海を、凛は無機質な視線で制した。
「これは……小鳥遊君と蓮の問題だ。他のメンバーには関係ない」
その言葉は、まるで「お前たちは仲間ではない」と突き放すような冷たさを含んでいた。凛に悪気がないのは分かっていても、全員が言葉を失い、ショックを隠せない。
「兄さん、もっと言い方があるだろ……」
「いいんだ、これで……。一歩対応を間違えれば、共演者のお前らにも被害が及ぶ。特に草薙君、知名度の高い君が巻き込まれたら、無傷では済まないはずだ。それだけは避けなければならない」
「無傷では済まない……。蓮さんと小鳥遊君が関係しているということは、ゴシップですか?」
弓弦の鋭い推察に、ナギの肩がびくりと跳ねた。
「……あぁ。撮られていたんだ」
凛の肯定に、場を絶望的な沈黙が支配する。自分たちの、あの夜景の見えるレストランや、砂浜での熱っぽい時間が、悪意あるレンズに切り取られていた。
「……どうして……。俺ら、悪いことなんて何もしてないのに……」
「ナギ。君はもう、立派な有名人なんだ。……ごめんね。僕がもっと注意深く周りを見ていれば」
歯噛みし、拳を震わせて俯くナギ。蓮はその肩を抱き寄せようとしたが、指先が触れる直前で思い止まった。今、ここで彼に触れることは、彼をさらに窮地に追い込むことになる。
「対応を考えるまで、撮影は全面中断する。小鳥遊君はしばらく自宅謹慎。蓮、お前は今日から俺の家に泊まれ」
「は!? ちょっと待てよ兄さん! なんでナギだけが自宅謹慎なんだ!」
「当然の措置だ。言っておくが蓮、お前も一歩も外に出ることは許さない」
「そんなの、横暴じゃないか!」
蓮の抗議を、凛の鋭い視線が射抜く。
「あれほど気をつけろと言ったのに、この記事を書かれたお前には言われたくないな。……お前が狙われているんだ。切り刻まれた衣装を、お前は見ていないだろう?」
「……それは……」
「狙われている以上、お前のマンションも特定されている可能性が高い。お前を守るためだ。分かってくれ」
悲痛な色を滲ませる兄の言葉に、蓮はそれ以上何も言えず、強く拳を握りしめた。
「蓮くん……悔しいのはわかるけど、今は凛さんの指示に従おう?」
雪之丞の窘めに、蓮は唇を強く噛んだ。
「……わかった。ナギ……みんな、巻き込んでごめん」
「謝んなよオジサン! 大丈夫だって。俺は信じてるから、またみんなで撮影できるって!」
「そうよ! 悪いのは犯人なんだから。二人は何も悪くない。あたしたちが一番よく分かってるし、信じてるから。だから、謝らないで」
美月と東海が蓮の手を力強く握った。
「御堂さん、我慢の時です。私の方でも解決策を調べてみます」
「ボクも……力になれるように頑張るから」
「お兄さん、そんな顔しないでよ。今生の別れじゃないんだからさ。俺なら平気。実家に戻って、大人しく弟の世話でもしとくよ」
ナギの健気な言葉に、蓮は目頭が熱くなるのを必死に堪えた。天井を見上げ、涙を誤魔化すように鼻を啜る。
「みんな……ありがとう……」
その光景を見て、凛は静かに頷き、蓮の肩を抱き寄せた。
「兄さん……?」
「……すまない」
その謝罪が誰に向けられたものなのか、判然としないまま、凛は弟を強く抱きしめた。
「……何も心配するな。お前は俺が守る。絶対に」
兄の強すぎるほどの力に包まれながら、蓮はただ、ナギの立っている方向を、滲む視界で見つめることしかできなかった。