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「……ん、似合ってる」
尊さんは一歩下がって私を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「……あ、ありがとうございます」
照れくさくなった私は、髪を指でねじねじしながらお礼を言う。
「靴、忘れてるぞ。そこ座って」
彼に言われ、私はソファに座った。
「わぁ……!」
彼が手にしたのはグレージュのショッパーで、ジミー・チュウと金色の文字で描かれている。
高級な物は買えないからあまり興味がないけれど、ネットでこのブランドのパンプスを見た時、素敵だなと思ってサイトを見て、それ以降密かに憧れていたりする。
だから思わず両手で口元を押さえ、ときめいてしまった。
「ん? 知ってるブランドだった?」
私の前に跪いた尊さんは、ショッパーの中から箱を出しながら微笑む。
「……あ、憧れてたけど……、買えないから……。知ってただけ」
モジモジして言うと、彼は嬉しそうに笑った。
「良かった。さっきからずっとボーッとしたままだったから、俺の気持ちが空回ってるかと思ってた」
「い、いえ。嬉しいんですけど、あまりに高価すぎてどう反応したらいいか分からなくて……。でも、……憧れのブランドの靴は……、嬉しい、……です」
「ん」
尊さんはクシャッと笑い、床の上に白いオルセーパンプスを置いた。
オルセーパンプス(ドルセーパンプス)とは、つま先と踵のみを覆って、側面は露出しているデザインだ。
名前は十九世紀の伯爵の名前から来ているらしい。
つんと尖ったポインテッドトゥパンプスの足首には、ダイヤモンドみたいな三角形のクリアストーンが連なっている。
パンプス本体にも、大小様々な丸いクリアストーンがびっしりついていた。
「ヒール、十センチあるけど、いけるか?」
「ホテル内のレストランに行くだけなら、多分」
十センチヒールを履いた事はないとは言わないけれど、長時間歩くのに適していないのは分かる。
でも今言ったような用途なら、きっと大丈夫だ。
「足出して」
尊さんは自分の太腿の上に私の足をのせ、パンプスを履かせてくれる。
「……憧れのブランドの靴を履かせてもらうなんて、シンデレラみたい」
ポーッとして言うと、チェーンを留めた尊さんが笑う。
「じゃあ、俺は王子役に立候補するかな。……真夜中を越えても帰さないけどな」
「……夜のシンデレラだ」
照れ隠しにボソッと言うと、尊さんはもう片方を履かせながら笑う。
「一気に十八禁感が強くなるな。ほれ、立ってみて」
尊さんは私の手を引いて立たせる。
「わ……っ、……と」
十センチヒールだから、グッと目線が高くなるし足裏への負荷もかかる。
でも憧れの靴を履けて気持ちを高揚させた私は、尊さんにエスコートされて広いリビングダイニングを少し歩いてみた。
「んふ……、ふふふ……」
まるでセレブモデルか女優になった気持ちになり、私はにやけながらコツコツと足音を立てる。
「似合ってる」
今日は一段と格好いい尊さんが褒めてくれるので、にやけてほっぺがどうにかなってしまいそうだ。
「……しゅき!」
私は尊さんに抱きつき、いつもより顔の距離が近い彼を見つめ、首に両腕を回す。
「全身俺が選んだコーディネートの朱里に、こうやって迫られるのは悪くないな」
尊さんは私の背中と腰に手を回し、甘く微笑む。
(あ……)
チラッと窓を見ると、抱き合った私たちの姿が反射して映っている。
(……映画の中のカップルみたい)
自分の事をそう感じた事はないけれど、特別な贈り物をされて気持ちがフワフワしている私は、浮かれてそんな事を思ってしまった。
「よっ」
「わぁっ」
私がポーッとしている間、尊さんは少し屈むと私をお姫様抱っこした。
そのまま彼は窓際に近づき、ネオン瞬く新宿を見下ろして笑う。
「気分は?」
「…………っ、最高!」
私は胸の奥がキューッと締め付けられるのを感じながら、尊さんの首に腕を回し、キスをした。