伸ばした右手が宙を彷徨う。腕と足に同時に力を入れて城壁を下へ押し込むと、身体が押しあがった。レンガに代わって、光を吸い込んだ雲が見えた。城壁の向こうの空だった。
頂辺にはゆるやかな風がふいており、図鑑で見た万里の長城とかとは違って、凹凸なくどこまでも一直線に伸びている。左右共に、ここからでは終わりは見えない。たすきがけの鞄を肩から降ろすと、カサッと軽い音がした。べっとりと身体に張り付いたYシャツを脱いで、鞄の上に乗せる。城壁の上面は石が粗雑に敷き詰められていた。歩くとごつごつした感触が伝わってくる。反対側の縁までは十歩あった。
向こうの世界を見渡すと、まず空と大地を分ける霞んだ山が見える。その手前に街が広がっていた。所々に緑が見える。さらに手前は雑木林が生い茂っていた。空がいくらか青く見える以外は、俺の来た側とあまり変わったようには見えない。