テラーノベル
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冬の気配が近づく放課後、体育館には冷たい空気が漂っていた。
3年生の先輩たちは引退し、2年の吉沢先輩がキャプテンになってから初めての大会が、もうすぐそこに迫っていた。
この大会が終われば、先輩は受験モードに入る。
練習後、一緒に帰る時間も減るかもしれない。
そんなことを考えると、胸がきゅっと締めつけられた。
練習が終わった日、片付けをしていると、先輩が声をかけてきた。
「○○、今日はちょっと遠回りして帰らない?」
外はすっかり暗くなっていて、街灯の下に白い息が揺れていた。
公園のベンチに腰を下ろし、自販機の缶ココアを渡される。
「これ、○○好きだろ?」
缶の温かさが、指先だけでなく胸の奥まで染みていく。
沈黙が少し続いたあと、先輩がぽつりと言った。
「この大会、全力で勝ちたいんだ。…○○に、最後まで見ててほしいから」
真剣なまなざしが、冬の夜にまっすぐ突き刺さる。
その瞬間、私はやっと気づいた。
この気持ちは、もう「憧れ」なんかじゃない――。
「…もちろんです。最後まで、絶対見てます」
そう答える私の声が、少し震えていたのは、寒さのせいじゃないじゃなかった。
大会当日。
体育館は満員で、熱気と緊張が入り混じっていた。
私はマネージャー席から、アップする先輩を見守る。
いつもより少し険しい表情。
でも、その背中は、やっぱり眩しかった。
試合は予想以上の接戦だった。
残り時間10秒、同点。
ボールは先輩の手に渡る。
「頼む…!」心の中で強く祈った。
先輩は相手をかわし、ゴール前でジャンプシュート。
ボールが空中を舞う一瞬、時間が止まったように感じた。
――スパッ。
ネットが揺れ、ブザーが鳴った。
勝利の歓声が体育館を包み込む。
先輩が振り返り、まっすぐ私を見つめて笑った。
その笑顔だけで、涙が溢れそうになった。
試合後、片付けが終わった体育館の外。
夕焼けの空に冬の気配が混じる。
「○○、ちょっと…話せる?」
人のいない校庭の隅で、先輩が立ち止まった。
「…今日、勝てたのは○○のおかげだよ」
「そんな…私、何も…」
「ある。ずっと見てくれてた。それが、俺には一番大きかった」
一歩近づいて、先輩は少し恥ずかしそうに笑った。
「俺さ…○○のこと、好きなんだ。ずっと前から」
胸が高鳴りすぎて、言葉がすぐには出てこない。
でも、心はもう答えを決めていた。
「…私も、先輩が好きです」
冬の夕空の下、二人の距離がゆっくり縮まっていく。
コートの上で輝く先輩の姿も、放課後の帰り道も、これからは全部「特別」になる。
第2話
ー完ー
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