テラーノベル
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大会で告白されてから数日後。
放課後に待ち合わせて、初めて二人で街へ出かけることになった。
「行きたいところある?」
「うーん…映画とか?」
少し照れながら答えると、先輩は嬉しそうに笑った。
「じゃあ決まりだな」
映画館までの道、隣を歩く距離が以前より近い。
信号待ちのとき、そっと手を繋がれ、指先が熱くなる。
映画の後は、イルミネーションが輝く並木道を歩いた。
冬の空気は冷たいのに、先輩の手が温かくて、手袋なんていらなかった。
「こうやって二人で歩くの、ずっと夢だった」
先輩の言葉に、胸がじんわりと満たされる。
帰り際、駅のホームで電車を待ちながら、先輩がぽつりと言った。
「卒業まで…全部の時間を○○と過ごしたい」
その瞳が真剣で、私はただうなずくことしかできなかった。
その夜、家に帰ってからも、繋いだ手の温もりが消えなかった。
冬休みが終わって少し経った頃。
先輩から「次の休み、ちょっと遠出しない?」とメッセージが届いた。
行き先は、電車で1時間ほどの海沿いの町。
放課後、電車に揺られながら窓の外を眺めていると、先輩が私の肩にそっと頭を寄せる。
「こうやってゆっくり電車に乗るの、なんか新鮮だな」
その声が近くて、胸がくすぐったくなる。
海辺に着くと、冷たい風と潮の香りが一気に押し寄せてきた。
「寒っ!」と笑いながら、先輩は自分のマフラーを外して私の首に巻く。
「風邪ひかれたら困るから」
そんな何気ない仕草が、心を温めてくれる。
夕日が沈む海を見ながら、防波堤に並んで座った。
波の音と、遠くのカモメの声だけが響く。
「○○と来られてよかった」
その言葉と同時に、先輩が私の手を握る。
冷たいはずなのに、その手は不思議なくらい温かかった。
帰り道、電車の中でうとうとしていたら、先輩がそっと私の頭を自分の肩に乗せた。
「このまま降りなくてもいいな…」
小さなつぶやきが、冬の夜に溶けていった。
第3話
ー完ー