テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
臣桜
561
saon
99
752
「お弁当食べるって…」
「ああ、忘れてた。もう腐った?」
忘れてた?そんなに忘れるもの?
最初から私の言葉を聞いていないんじゃない?
「腐っているのか聞いている」
「簡単に腐る季節じゃないわ……気を付けて作ってもいるし…」
「じゃあ、ママと俺は夕食にそれな。千愛には、ちゃんと出来立ての夕食を作ってやれ」
腐るとか…一生懸命に作ったものに安易に使って欲しくない言葉。
朝から作った私の気分がいいはずがない。
そんな私の気持ちに気づくはずもなく、夫は
「昼が洋食だったから、今夜、千愛には和食を作ってやれ」
と、当たり前に言い放った。
「和食…」
子ども一人分の和食って、難題なんだけど?
出来立てを求めるにしたって、オムライスでいいでしょ?
「それくらいの頭と労力を使えよ。毎日家にいるんだから、できるだろ?」
「……」
そんな個別対応方式の家政婦じゃないわ。
「何を作るんだ?」
私の無言の抵抗は、何の役にも立たない。
「…親子丼にするわ」
「ダメだ。オムライスを食べて来たから、夕食にこれ以上の卵は必要ない」
「……鶏の照り焼きと…」
「あとのバランスも考えろ。歯の生え変わり、身長の伸び…今の千愛に食事はとても重要だ」
よくそれだけのこと…千愛に関することは次から次へと頭に浮かぶのに、私と約束した植物園やお弁当はさっぱり忘れるって……忘れているにではなく、放置されているのかな。
こんな夫と一緒にいても、幸せにはなれない……
「めちゃくちゃ可愛いな、千愛」
再び上機嫌な夫の声に目を向けると、美容室で毛先を可愛くカールしてもらった千愛がニコニコとしている。
その笑顔を見ると、これでいいのかとも思うけれど。
「千愛、そこでストップ。写真撮って待ち受けにする」
「ええ…パパ、待ち受けはイヤだぁ」
「じゃあ、待ち受けはやめた。ん…チーズ」
スマホで写真を一枚撮った夫は
「千愛、ここ」
と今度はソファーに座る。
「ぇええっ?」
少し嫌がった千愛を隣に座らせて、二人一緒に写真を撮る夫を見て、私と夫の写真なんてあったかな……新婚旅行ではもちろん撮っていたけど…その後数年も千愛を抱っこして一緒に撮っていたな。
でも、私と夫の二人では……いつ?
思い出せないくらいの遠い記憶に、幸せも遠ざかる気がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!