テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「お弁当食べるって…」
「ああ、忘れてた。もう腐った?」
忘れてた?そんなに忘れるもの?
最初から私の言葉を聞いていないんじゃない?
「腐っているのか聞いている」
「簡単に腐る季節じゃないわ……気を付けて作ってもいるし…」
「じゃあ、ママと俺は夕食にそれな。千愛には、ちゃんと出来立ての夕食を作ってやれ」
腐るとか…一生懸命に作ったものに安易に使って欲しくない言葉。
朝から作った私の気分がいいはずがない。
そんな私の気持ちに気づくはずもなく、夫は
「昼が洋食だったから、今夜、千愛には和食を作ってやれ」
と、当たり前に言い放った。
「和食…」
子ども一人分の和食って、難題なんだけど?
出来立てを求めるにしたって、オムライスでいいでしょ?
「それくらいの頭と労力を使えよ。毎日家にいるんだから、できるだろ?」
「……」
そんな個別対応方式の家政婦じゃないわ。
「何を作るんだ?」
私の無言の抵抗は、何の役にも立たない。
「…親子丼にするわ」
「ダメだ。オムライスを食べて来たから、夕食にこれ以上の卵は必要ない」
「……鶏の照り焼きと…」
「あとのバランスも考えろ。歯の生え変わり、身長の伸び…今の千愛に食事はとても重要だ」
よくそれだけのこと…千愛に関することは次から次へと頭に浮かぶのに、私と約束した植物園やお弁当はさっぱり忘れるって……忘れているにではなく、放置されているのかな。
こんな夫と一緒にいても、幸せにはなれない……
「めちゃくちゃ可愛いな、千愛」
再び上機嫌な夫の声に目を向けると、美容室で毛先を可愛くカールしてもらった千愛がニコニコとしている。
その笑顔を見ると、これでいいのかとも思うけれど。
「千愛、そこでストップ。写真撮って待ち受けにする」
「ええ…パパ、待ち受けはイヤだぁ」
「じゃあ、待ち受けはやめた。ん…チーズ」
スマホで写真を一枚撮った夫は
「千愛、ここ」
と今度はソファーに座る。
「ぇええっ?」
少し嫌がった千愛を隣に座らせて、二人一緒に写真を撮る夫を見て、私と夫の写真なんてあったかな……新婚旅行ではもちろん撮っていたけど…その後数年も千愛を抱っこして一緒に撮っていたな。
でも、私と夫の二人では……いつ?
思い出せないくらいの遠い記憶に、幸せも遠ざかる気がした。