テラーノベル
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君は何を幸せとして感じたのか。
君は何を辛さとして感じていたのか。
君は誰に救われていたのか。
君は何を根拠に生きていたのか。
私は君にとって何だったのか。
君は、私の何だったのか。
君は、どうして。
それはこの星たちしか知らない。
夜空に小さな穴を開け続ける、
この幾億もの些細な輝きだけ。
それだけが、
この世の全てを知っている。
今宵、酔いが回る前に
そんな幻想を企てながら、私は。
君を追いかけるように
雨空の下、たったひとり。
その先のことは
あの六等星しか知らない。
[ 彗、落ち着いて聞いてね ]
始まりは些細なことだった。
この大きな世界の中で
ちっぽけな、消しクズみたいなこと。
[ 詩雨くんが ]
確かその日は
ここ数年で珍しい洗車雨で
君の好きだった氷菓をかじりながら
とある小説を読んでいた気がする。
確か、お母さんは一呼吸置いて
静かに目を伏せてから
掛けていたエプロンの裾を掴んで、
それから、
[ 詩雨くんが、亡くなった ]
それからのことは
ほとんど覚えていない。
床に落ちて溶けた氷菓と
何度か鳴ったスマホのバイブ音と
投げやりに置かれた小説と、
その題名だけ。
壁に掛かった君とのツーショットが
やけに美しく感じてしまって
だから、降り注ぐ槍の下
君の元へ駆けたんだと思う。
『 …あのっ、 』
君の両親の腫れた目元と
泳ぐ瞳、落ち着かない手先。
それが全てを語っていた。
[ …彗ちゃん ]
[ もう、聞いたのかな ]
『 …ほんとに、詩雨は、 』
[ ふふ、詩雨って呼んでるの ]
初めて聞いたわ、と
いつもより小さな目が弧を描いた。
[ …ごめんね、伝えられなくて ]
『 いえ、…てか、 』
その先の言葉はどうしても、
どうしても、喉の奥にへばりついて。
[ 立ち話じゃなんだし、入って ]
君の匂いがする空間にいるだけで
くらくらして、ぐわぐわして。
上手く言葉に出来ないけど
きっと、さっき読んでた小説の通り。
【 *どうしても、本当に。* 】
【 *あの星の気持ちが知りたい。* 】
『 …あの 』
目の前に出された
とうに露点を越しているであろう麦茶に
『 ごめんなさい 』
私は謝ることしか出来なかった。
[ …どうして? ]
心底不思議、というような表情で
君によく似た瞳が私の瞳と絡んだ。
『 …詩雨と私、付き合ってたんです 』
『 誰にも言わず、ふたりだけで 』
[ あぁ…それなら _ ]
知っていた、とでも言うように
この日いちばん穏やかな弧が描かれた。
[ 雰囲気とか、お揃いの物とか… ]
[ それこそ、詩雨のお話とか ]
直接的ではなかったけれど、と
君の内側が暴かれていく。
少なくとも
私はそれを望んでいなかった。
[ 彗ちゃん、思いつめないでね ]
[ 原因は絶対、貴方じゃないから ]
【 *言葉が簡単に信じられるものなら* 】
【 *きっと、この世に虚想なんてない。* 】
そんな言葉が浮かんでしまうほど
私は目の前の人を信用出来ていないから。
君にとって何が幸せで
君にとって何が辛さで、ストレスで
その内側を剥がれ続けても
きっと、私には理解できない。
この言葉の意味も
きっと貴方たちには理解できない。
織姫と彦星は
一年に一度しか出会えない。
それでも会えるのなら幸せだ。
もう、君とは会えない。
君の詩を、読むことは出来ない。
だって、私は。
君の死すら読めなかったのだから。
もしも時が戻せたら。
きっと私は君にあの言葉の通り伝える。
君の描いた言葉の通り、ちゃんと。
【 *君が死ぬのなら* 】
【 *僕も、死んだようなものだと* 】
【 *君が死を選ぶのには、きっと* 】
【 *それなりの理由があるのだけれど* 】
【 *どうか、僕だけには教えて欲しい。* 】
【 *星の言葉は分からなくても* 】
【 *君の言葉は、ちゃんと分かるから。* 】
『 …ねぇ、詩雨。 』
顔に当たる大粒の雨が
馬鹿みたいに、気持ち悪くて
『 教えてよ。 』
あの小説の意味も、生き方も
生きる意味も、死んだ理由も、全て。
【 *ただひたすらに* 】
【 *星の声が知りたい。* 】
【 *星は心臓で、雨はアルコール。* 】
『 知ってたなんて、バカみたい。 』
【 *僕の心臓はとっくに消えかけていて* 】
【 *必死にアルコールで繋ぎ止めて* 】
『 不特定多数じゃなくて 』
『 私に向けてよ。 』
【 *それももう、疲れちゃった。* 】
洗車雨なんでどうでもいい。
ただ、ひたすらに。
【 *ただ、ひたすらに* 】
【 *君の声が聞きたい夜がある。* 】
今宵、酔いが回る前に君に愛を伝えたい。
降り注ぐ雨の下、私は初めて
たったひとりの人間のために、死んだ。
君を照らす、太陽になりたかった。
『 ふーん…で、泣いたわけだ 』
「 別にいいだろ 」
『 詩雨も泣くんだね 』
「 泣いたら死んだも同然だけど 」
その言葉の意味を、 私はまだ知らない。
きっと、
よく晴れた日の事だったように思う。
駄菓子屋の小さな氷菓をかじり、
暑さを凌いでいたあの日。
『 …てか、聞きたいんだけど 』
「 んー? 」
『 詩雨のこれ、本音? 』
君の小説サイトの トップページを開く。
「 んー、あー 」
手に溶け落ちた氷菓を一度舐めてから
君は眉を下げて答える。
「 2割ね 」
【 *2割。君の知る僕。* 】
君が死んだ日に投稿されたのは
【 *8割。誰も知らない僕。* 】
その言葉は
心臓に空いた穴を端から侵食していく。
黒く、深く。
悲哀と後悔と、そして憎しみと。
君の知らない私が
じわじわ、増えていく。
誰も望まない、本当の私だけが
私の本心を知っている気がした。
君の小説サイトのトップページを開く。
プロフィール画面には
ほぼ空白の自己紹介が続く。
名前 ame
ストーリー 20
フォロワー 381
フォロー中 42
自己紹介
- 鼻先をくすぐる詩の匂い
それが何を意味するのか、
私は知っているような気がした。
『 鼻先をくすぐる、 』
死の匂い。
ポケットに入っている小銭を確認して
イヤホンを挿したスマホ片手に
あの場所へ。
バス停を降りてすぐにある駄菓子屋で
ソーダの氷菓をふたつ買う。
「 すい! 」
ふいに、君の声が頭に反芻する。
遠くに、いつかの私たちが見えた。
「 いたいの、とんでけーっ! 」
痛みを飛ばす魔法も
『 んふふ…しうくん 』
「 んー? 」
どこかに無くした音の鳴る玩具も
『 すい、おとなになったら 』
『 しうくんとケッコンする!! 』
「 ケッコン? 」
『 うん!えーっとね… 』
足元に咲いていたシロツメクサを摘んで
不器用に輪を作って
『 これ、ゆびわ! 』
あの時の指輪も、笑顔も
全部、永遠に残り続けるもの。
例え、君が居なくなったって。
『 …詩雨くん 』
真似をして呼んでみる。
そうすれば、君と出会える気がして。
【 *嘘をついてでも* 】
【 *君と生きていたくて。* 】
海辺のこの野原で
君は何を思っていたんだろう。
空高く浮かぶあの星を掴めば
それが分かるのかな、なんて。
【 *いつだって大丈夫。* 】
【 *あの星を掴めば、答えがわかる。* 】
七夕で飾られる笹に願いが掛かる。
それだけで幸せな日があった。
【 *君にとっての幸せは?* 】
【 *君は決まってこう答える。* 】
『 …いつまでも、君と居ること 』
確か、去年の七夕はそう書いたっけ。
鳴り止まないバイブに
薄く広がり、永く続く天の川に。
『 もしもし 』
[ ッあ、彗!! ]
[ アンタ今どこに _ ッ ]
『 …あのね、お母さん 』
今年は何をお願いしよっか。
ぽつ、と頬に一雫のナニカが落ちる。
『 帰るよ、ちゃんと 』
[ 当たり前でしょ…もう遅いから、 ]
午後6時を告げる音楽が流れる。
『 でも、もう少しだけ待って欲しい 』
「 ……えぇ、分かったわ 」
【 *貴方に逢いたくて* 】
【 *生まれてきたんだよ* 】
雫を垂らした草花の上に寝転がる。
静かに瞳を閉じて。
「 彗! 」
『 詩雨、 』
色素の薄い髪の毛に瞳、
ほんのり赤く染まる頬に耳。
「 お前、どうして… 」
『 教えて 』
『 そしたら、帰るから 』
どうして君は死んでしまったの?
「 …教えるって、なにを 」
困ったように眉を下げて
優しく柔らかな瞳が私の瞳と絡む。
『 詩雨は、君は 』
『 …ううん、詩雨にとって。 』
一度目を瞑って、一呼吸おいて。
『 私は、なんですか? 』
「 …は、 」
『 それと、生きた理由。 』
死んだ理由なんて、心底どうでもいい。
だって私には理解出来なくて
そのくらい辛くて、しんどくて
だから君は死んでしまったんだ。
それを同情や慰めで完結させるのは
ただ、意味の無いことだと。
君ならそう感じるだろうから。
降り掛かる雨の下
君は濡れた前髪を触りながら答える。
「 ふは、なにそれ 」
『 詩雨のことを知りたいの 』
「 俺にとって彗とは、か 」
『 正直、君を追いかけたい 』
「 死ぬなよ 」
『 君は死んだくせに 』
その先のことは
私たちを静かに蝕んだ
あの大粒の雨たちしか知らない。
『 ん…うるさ、 』
耳を劈くような目覚ましの音で
幸せな夢から覚める。
毎日、同じ夢を見て
毎日、その中で変化に気付いて
毎日、その繰り返し。
『 おかーさーん、起きたー 』
[ もうっ…遅刻するわよ! ]
君が居なくなってから
『 あ、朝ご飯ホットサンド? 』
[ ふふ、彗好きだったでしょ ]
君の小説を何度も読む秋が来て
『 うん、好き 』
君と作ったスノードームを
何度も引っくり返す冬が来て
[ あ、そうそう ]
[ 今日 _ ]
海辺の野原は綺麗に桜が咲き終わって
『 詩雨の命日、でしょ 』
[ えぇ、どうするの? ]
『 詩雨の家行ってくるよ 』
また、天の川が綺麗に見えそうな
馬鹿みたいに暑い夏がやって来ました。
シロツメクサで結った指輪に
三葉と四葉が入り乱れる花冠。
君はきっと、それが好き。
心臓の星が消えてしまわないように、
自らの手で潰してしまわないように。
雨みたいに沢山アルコールを注いで、
星を絶えず燃やし続けて。
君にとっての生きる、とは
そんな義務的なことだったね。
『 じゃ、行ってきます 』
君にとって私とは
必要不可欠なアルコールで、雨で
希望で、光で、行先の道標。
そんな大役任されてたら
未だ、星は消せないね。
今宵、酔いが回る前に
沢山の愛を伝えてくれた君に
数え切れないほどの愛と、理由を。
『 私にとって詩雨は 』
『 魔法で、永遠に注がれる _ 』
今宵、酔いが回る前に
星を燃やし続けるアルコールを注いで。
そして、愛を誓いに行こう。
【 *星とアルコールを、君に。* 】
コメント
9件
天才ですか海恋ちゃんは‼️ やばい久しぶり見たからめっちゃなんかえ好き!!!!!! 題名も六等星って単語出てくんの天才すぎる
お ー が の 書 き 方 本 当 に 大 好 き 過 ぎ る 最 高 で す 🤦🏻♀️ 💕 タ イ ト ル か ら し て 神 作 だ と 思 っ て た ら 案 の 定 神 作 だ っ た 。 愛 読 す る 。
昔のがおーの書き方に戻った感じするね これがお~の小説の中でトップスリーに入るくらい好きかも 綺麗で儚くて脆くて紺色で透き通ってて大好き 言葉選びも好きだな