『再婚でもなんでもいいから、愛妻家というアピールが欲しい。家庭を大事にしている若者を好むんだよ。だから君を推したい』
「あ、あのっ、実は、妻のことを相談に乗ってくれている女性がいまして…」
『なんだもういい人がいるのか? すみに置けないなぁ』
兼房の声が好奇を含んだものになる。『だったらすぐ再婚しなさい。男なら再婚期間も問題ないだろう。あ、こういうのはどうだ? 婚約パーティーを開くんだ。美晴さんに裏切られたことを前面に出し、今、君を支えてくれている人を大事にする、と大勢の前で発表すれば生頼先生も納得するし、再婚の賛否もその場で確認できると思うんだ。良ければその後、婚姻届けを提出すればいい。うん、我ながらナイスアイディアだ』
「こ…婚約パーティーですか…」
大がかりなことは避けたい気持ちが広がる。どのみちこずえを生涯のパートナーに考えているわけではないのだ。あくまでも彼女はお遊びの女。一生を共にするのなら、美晴のような女でなければ。
『できないなら支援はしない。この話もなしだ。好きにしなさい』
先ほどまで好意的だった兼房の声が、一気に固く不機嫌なものになった。まずい。この男は自分の意見を押し通すことで有名なのだ。彼を怒らせ、一手引き受けている会計の契約を切られるわけにはいかない!
「わ、わかりました! 早急に準備します!」
『よかったよ。じゃあ、生頼先生に紹介できることを楽しみにしているから』
「はいっ。いつもご配慮いただきありがとうございます!」
相手が電話を切った。重く長い息を吐きだす。
美晴に離婚届を渡したばかりで、もう次の再婚話になるとは思わなかった。
(こずえと再婚か…。ほとぼりが冷めたら離婚しよう)
生頼を紹介してもらうために、とにかく準備をしなければと幹夫は立ち上がった。
この電話が、AI音声による美晴たちからの連絡とも知らずに――
※
運営がうまく幹雄をリベンジプランに引き込んだため、彼はこずえに連絡を入れた。数コールを内耳で聞いた後、こずえの鼻に抜けるような甘い声が脳内に到達するかと思いきや、彼女の声はいつもと違って切羽詰まった様子だた。
『みきくん! 私も電話しようと思っていたの!』
「どうした?」
『私の所に美晴から内容証明が送られてきたんだけど!!』
「僕の方にも届いた。でも、説得して美晴とは離婚した」
秘密を暴露すると脅されて離婚届を書いたとは言えずに誤魔化した。
『えっ…美晴と離婚したの!?』
「ああ。とにかく自由になりたい、と言われてさ。たった今、離婚したところだ」
『そうだったんだ…じゃあ、私の内容証明もチャラってことかな?』
「そうじゃないか。美晴の性格を考えたら、君の方にも手を打っただけだと思う」
『え~、でも心配。みきくん、美晴に聞いてみてよぉ~』
「さっき美晴とは縁を切ると約束したんだ。約束を破るわけにはいかない。無視でいいと思う」
『そっかぁ~。みきくんがそういうなら、大丈夫よね』
「ああ。問題ない」
『さすが、みきくんだね! 頼りになる♡』
いつだってうまくやってきた。美晴との離婚は痛手かもしれないが、今後の出世を考えれば安いものだ。辛気臭い顔をしていつまでもうじうじした女性よりも、華やかで自分の性癖を理解し、社交的でお世辞を言うのもうまいこずえの方が、なぜかこの時、魅力的に感じた。
コメント
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内容証明って簡単に破棄できないでしょ?