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闇龍ガンマが突如として生み出した闇の中で、僕とミカエル、ルシフェル、悪魔ルイン、そして四方守神の四人が集められていた。
「光と闇は特別……暴発はしないはずなのに……」
ミカエルは顔を青褪める。
何故なら、闇の暴発なんてものは理として有り得ない。
もし起こり得るならば、今まで止めてきた五人の自然の神たちとは比にならない被害が出てしまうからだ。
「いや、厳密には、ミカエルとは違って、アゲルも僕の創造で創られた七神だ。暴発自体は有り得るが……他の自然の五人の暴発とは少し違っているんだ……」
「自然の五人は、誰か一人でも魔力切れを起こしたら、この世界と共鳴するように自然の魔力が暴走、それを僕たちは暴発と呼んでいます。では闇とは……?」
「闇はその通り “闇” なんだ……。自然の五人と隔たれている為、共鳴こそしないが、アゲルの気持ちがどん底に落とされた時、闇に支配される可能性がある」
「そんな危険な可能性……!! だから僕は最初から幼神が闇の神は務まらないと……」
興奮するミカエルを僕は制止する。
「違うんだ……。本来であれば、それでもアゲルの暴発は有り得なかった……。バベルの記憶を失っている時の僕が 『闇神魔法でアゲルを物質化させた』ことでその可能性を引き出してしまったんだ……」
そう、だからアゲルは物質には触れない。
この、悲劇のような暴発を抑える為だった。
「なるほど……。記憶のない状態で、最悪の状況を創り上げてしまった……。どうするんですか……。正直に言いますが、こうなったらもう『アゲルを殺す』以外に選択肢はありません。覚悟を決めてください、ヤマト……」
少し目を瞑り、沈黙の後に、僕は息を吸い込む。
「いや……」
そして、目を開く。
「僕は……ヤマトだ……。バベルの使命は、きっとこの世界の為に最善を尽くすのだろう。でも、僕はヤマト。ヤマト・エイレスなんだ」
「何を今更……貴方がバベルだとかヤマトだとかは、今は関係ない……」
「いや、僕はヤマトだから、七神を守ると誓ったんだ」
ふと見ると、アズマたちは僕を見て笑っていた。
僕が何を考えているのか、四方守神の四人なら分かる。
「アズマが微笑んでいる……何をする気なんですか……」
「四方守神の存在を知らなかったミカエルに教えよう、僕が四方守神を生み出した本当のわけ……」
ミカエルはゴクリと唾液を飲み込む。
「ディムさんの言う通り、理を犯せば世界は崩落する。しかし、それを止められるのが四方守神の存在なんだ」
「理を……変えるってことですか……?」
「ああ……あとは、任せて欲しい。ガンマ!」
「ああ……直ぐに送ろう……」
僕は、ガンマに合図をし、四方守神を四方の社へ送る。
そして、僕はアゲルの元へと向かう。
「いいですか、ヤマト。貴方は一度、冥界の国で魂を抜かれています。光龍の力と、闇神魔法でなんとか蘇生が叶いましたが、次はないと思ってください」
僕は、ミカエルの顔を見る。
「ミカエル、今ここでハッキリさせておきたい」
「な……なんですか……」
「ミカエルがアゲルの名を借りていたのは、本当はアゲルと仲良くなりたかったからなんだよな」
ミカエルは俯いて答えない。
「光と闇。特にアゲルは、唯一神である僕の側近として、ずっと側にいたミカエルのことを羨み、それはいつしか憎しみへと変わって行った。そんな目を向けられたミカエルも自然とアゲルと言う闇の存在を煙たく感じる……」
「僕が……そんな簡単なことで……」
「じゃあ、どうしてアゲルと名乗っていたんだ?」
ミカエルは、またしても俯いた。
「じゃあ質問を変える」
僕は、ミカエルに二本の指を掲げた。
「ダイジョー……ヴイ……」
「ミカエル、アゲルのこと、助けてやりたいか?」
僕は、ピースを送ってニコッと笑った。
「変わりませんね……ヤマト……。なんだか、こっちが調子を狂わされてしまいますよ……」
ミカエルは、そっと、ピースを返す。
「助けてください。アゲルを。次こそは、僕も彼と友達になりたい」
「おう、任せてくれ!」
そして、僕は暗雲轟く冥界の国へと単身で向かった。
「居た……。闇の侵食が進んでいるな……」
アゲルの周りには、黒いオーラのようなものが渦巻き、それらはこの世界を覆うように空へ充満していた。
そして、他の七神と違い、もう一つ厄介なのは……。
「バベル……僕を……もう……殺して……」
苦しみの中で、意識があると言う点だった。
「こんな気持ちは味わいたくない……。世界が救われたら、僕はまた寂しい想いをしなくちゃいけない。でも、世界が救われないと、みんな死んじゃうから……。だから、僕のことはもう殺してよ……」
「アゲル、今助けるぞ」
「バベル……やめて……殺して……!」
僕は、黙ってアゲルに手を翳した。
「こうなった僕をもう救えるわけないじゃん!!」
「創造魔法 バベル!!」
光と共に、アゲルを覆うオーラは解き放たれた。
そして、冥界の国を巡る暗雲も晴れて行った。
「何を……したの……。こんなことしても……僕はまたいずれ暴発してしまうのに……」
「それはないよ、アゲル」
「え……?」
僕がしたことは【想像魔法 バベル】。
そう、この世界を創造する時に使った魔法。
そして、『この世界の理を変えた』。
「君は、もう闇の神ではない」
「どういう……こと……?」
「この世界から、闇の神という存在を無くしたんだ」
「そ、そんなこと……したら……冥界の国は!? 死んだ人の輪廻転生はどうなるの!?」
「冥界は残るけど、国は無くなる。悪魔ルインも、君も、もう輪廻転生の仕事をしなくていい」
そもそも、冥界の国、闇の神が必要になったのは、僕の甘えた考えが原因だった。
死んだ者に猶予を与え、記憶を残し、輪廻転生までの間に反省させたり、悔いを残させない為の対処。
その時間の管理としての、闇の神の存在だった。
でも、死んだ瞬間にもう魂だけの存在とし、次の輪廻までの待ち時間もなければ、管理は必要にならない。
僕は、このように世界を創り変えた。
僕は、アゲルに手を差し出す。
「何……?」
「行こう、アゲル。ここは死者しか立ち入れない場所だ。アゲルは、地上に帰らなければならない」
「地上に……帰る……?」
「そう。生きてる人は地上に帰るんだ。僕と一緒に」
「バベルと……一緒に……!」
泣きながら、アゲルは僕の手を取った。
小さな子供に、無理を強いていたと自負している。
僕は何もこの世界を分かっていなかった。
僕が生み出した存在。
“神” と称されていても、子供は子供なんだ。
僕は、その手を取って、地上界へと戻って行った。