テラーノベル
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怪我をして運び込まれ、予定外にフィル様と再会して幸せに過ごした城を、一足先に出ることにした。 フィル様と第二王子は、もうしばらく残るという。クルト王は、三日後には王都に戻るらしい。「王都に来ることがあれば、王城を訪ねて来い。歓迎するぞ」と言われたが、俺が単独で王都に行くことはない。無邪気なフィル様に「ぜひ遊びに行くといいよ」と勧められたが、行くことはない。
そしてジルには丁寧に礼を述べた。必ずジルにも祖父母殿にも礼をすると申し出たが、丁寧に断られてしまった。
「いつか困った人がいれば、助けてやってくれ。それを俺達への礼としてくれればいい」
「ジル殿、ありがとう。心より感謝する」
俺はジルに向かって頭を下げた。とても|崇高《すうこう》な人物だ。こういう人とは長くつき合いたい。
見送るというフィル様やジルに気持ちだけ頂くと断って、まだ薄暗い早朝に城を出た。大きな荷物を背中に背負い、軽快に歩く馬の首を撫でる。
「長い移動になるが、頼むぞ」
わかったという風に、馬が首を縦に振った。「良い子だ」ともう一度首を撫でていると、騎乗した人物が隣に来て並んで進む。俺は横を向き、|呆《あき》れたように息を吐き出した。
「ゼノ殿、なにも俺につき合って、一緒に来なくても良かったのに。第二王子の傍にいなくてもいいのか?」
「いい。今の俺は、リアム様の側近というより、ラシェット様の側近みたいなものだからな。それにやはり俺が案内した方が早い。というより案内したいんだ」
「旅は一人より二人の方が楽しいしな」とゼノが歯を見せて笑う。
正直俺は、一人で行動する方が好きだ。だがゼノの好意を無下にはできない。だからもう一度息を吐き出すと、「では行こうか」と手綱をしっかりと握り直した。
「ラズール殿、目的地までは三日ほどだ。急ぐ必要はないからのんびりと進もう」
「わかった。しかしその前に、ラシェット殿に挨拶したいのだが、いいか?」
「え?先に行く?後でもいいと思うけど」
「先に行く。それが礼儀だ」
「了解。まあ俺も、そろそろ顔を出さないと怒られそうだしな。ちょうどいいか」
「呑気なものだな」
「だがやるべきとこはやっている」
「…そうか」
王族の別荘だという城に居る間、俺の知る限り仕事をしていたようには見えなかったのだが。まあ要領よくこなしているのだろう。
馬の速度を上げて前に出たゼノの、風にひるがえるマントを見ながら、ゼノに遅れないよう俺も馬の腹を軽く蹴った。
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