テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「待てッ! 待てって言ってるだろテラモン!!」
白銀の回廊に、1x1x1x1の悲痛な叫びが空しくこだましていた。
弱体化した体躯を必死に動かし、黒地に緑のローブの裾をバタつかせながら逃げ惑う1x1x1x1。
そのすぐ背後には、等間隔で静かな足音を刻むテラモンの姿があった。
白いフードの隙間からふわふわとした茶色い巻き毛を揺らし、白黒の重厚な鎧を纏ったテラモンは、その右手に神々しく輝く金色の剣を掲げている。
しかし、その目元を覆う影の奥には、命の温もりすら感じられない無機質な暗闇だけが広がっていた。
SWAPSAKENの「反転」の呪いは、彼の絶対的な高潔さを「完全なる無情」へと書き換えてしまっていたのだ。
1x1x1x1は迫り来る金色の刀身に冷や汗をダラダラと流しながら、必死の思いで後ろを振り返った。
「思い出せテラモン! 俺たちは元々ひとつだったんだぞ!? 俺はお前から分離した邪悪の化身で……言わばお前の生き別れの半身みたいなもんだろ! 昔はもっとこう、説教くさくても情ってものがあったはずだ!!」
かつての記憶と絆に賭けた、一世一代の必死な説得。
しかし、テラモンの白いフードが微かに傾き、その薄い唇から漏れ出たのは、一切の抑揚がない音声合成のような機械音だった。
「……対象の言語パターンを照合。……無意味な音波振動と認定。言語解析を破棄」
「話を聞けよ!! 音波振動ってなんだ、俺の魂の叫びだぞ!?」
「……対象の『過去の絆』に基づく交渉要求を無視。……『絶対殺害コマンド』を実行」
「容赦がなさすぎるだろーーーッ!?」
ブンッ!!!
空気を切り裂く鋭い風切り音とともに、金色の剣が容赦なく振り下ろされた。
1x1x1x1は悲鳴を上げて前方に転がり込み、間一髪で頭上を通過した刃を回避する。
間髪入れずに次の水平斬りが襲いかかり、1x1x1x1はなりふり構わず地面を這いずり回りながら、無感情な殺戮マシーンと化したかつての半身から逃げ惑うしかなかった。
「ハァ……ハァ……! 死ぬ……マジで殺される……!」
運動神経が壊滅した身体をなんとか鞭打ち、1x1x1x1はSWAPSAKENの物陰――白銀の柱と、以前ヌーブが壊した空間の巨大な「亀裂のシーム」の隙間に滑り込んだ。
息を殺し、黒いローブで身を小さく丸める。
すぐ目の前を、ガシャリ……ガシャリ……とテラモンの重厚な鎧の音が通り過ぎていく。
白いフードから覗く茶色い巻き毛が揺れ、金色の剣の先端が地面をかすかに擦りながら、無感情な探索を続けている。
(よ、よし……やり過ごしたか……? どんなに凄腕の剣士だって、見えない敵は斬れねぇはずだ……)
1x1x1x1が胸を撫で下ろし、安堵の息を吐きかけた――その瞬間。
ピタリ、とテラモンの足音が止まった。
ゆっくりと振り向くテラモン。白いフードの影から光る無表情な視線は、1x1x1x1そのものではなく、1x1x1x1が隠れている「空間の亀裂そのもの」に向けられていた。
「……未修復の空間歪みを検知。……世界の破片の『縫合』を開始する」
「え? 待て、縫合って――」
テラモンは1x1x1x1の存在など端から認識していないかのように、静かに金色の剣を上段へと構えた。
「――一閃」
チィィィィィン…………ッ!!!
閃光が弾けた。
金色の刃が描いた一本の筋が、空間そのものを、そしてその前に隠れていた1x1x1x1ごと、背後の景色を一刀両断にした。
「ぎゃあああああッ!?」
刃が描いた光の軌跡に沿って、目にも留まらぬ速さで光の針と糸が走り抜ける。ヌーブが引き裂いたはずの空間の傷痕は、テラモンの神技によって寸分の狂いもなく、完璧で美しいシームとなって縫い合わされた。
……だが。
「……修復率、12.4%へ上昇。……次の歪みへ移動」
テラモンは金色の剣を納めると、何事もなかったかのように立ち去っていった。
そのあとに残されたのは、寸分の隙間もなく完璧に修復された白銀の世界の壁。
そして――その壁と空間の「目立つ縫い目」の真ん中に、縦一文字にガッチリと挟まり、身動きが取れなくなった1x1x1x1の姿だった。
黒地に緑のローブの左右が、縫合された空間のシームにガッチリと縫い込まれ、1x1x1x1は壁に貼り付けられた昆虫の標本のように手足をバタバタと泳がせた。
「挟まった!! 空間の亀裂が綺麗に直ったせいで、俺が世界の縫い目に挟まったぞ!!」
黒い肌を真っ赤にし、空間の縫い目から抜け出そうと必死に身悶えする1x1x1x1。
しかし、神の力で完璧に縫い合わされた世界のシームはびくともしない。
「おい誰か!! 助けろ!! アクチュアリティ女王でも誰でもいいからハサミ持ってこい!! 俺が世界の一部になっちゃうだろ!!」
白銀の美しい箱庭に、見事に修復された空間と、そこに挟まって哀れに叫び続ける「元・最凶キラー」の悲鳴が虚しく響き渡るのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
城プル
11,174