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夏希の裏庭話 「雨の後には」
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入道雲。夏を代表する雲って言ったらこれじゃないかしら。小説の表紙や、映画の背景にもよく使われて夏の暑い印象と共に残る、大きな存在よね。
でも、知ってる…?入道雲って短時間に沢山の雨を降らすの。それが、土砂崩れになったり木材が腐るのを早めたり…つまり悪い事も起こっちゃうってこと。
見た目は夏を代表するモノの仲間なのに、中身は全く反対の激しい感情を持ってる。ほんと嫌になっちゃう。
だって、私も同じなんだから…
ー夏希6歳
「夏希…?何をしているんだい?」
「じぃちゃん。なんでもないよ、」
「…そうか。夏希は空を眺めるのが本当に好きだよね」
「うん」
じぃちゃんと出会ったばっかりの私はすごく、物静かで不思議な女の子だったと思う。ただ空を眺めては、質問に最低限しか答えない…いや、最低限しか答えられなかった。
「あの雲は飛行機雲って言ってね、兵隊さんが乗ってる飛行機が飛ぶと出来るんだよ」
それでもじぃちゃんは私に話しかけてくれた。
「…へえ。」
「あ、雨が降ってる」
この日は、あの日みたいに土砂降りだった。
「積乱雲だね。夏希、雷は怖くないかい?」
「大丈夫。」
あの時は不思議と、雨と自分が似ている気がした。私の心で降る雨が、思い出を全て流してしまうみたいで、すごく怖かった。いや、逆にこの雨が全て流してくれ、なんてことも考えてしまった。
そんな夏のある日、じぃちゃんが私に提案をしてきた。
「ねぇ夏希、夏希にそっくりな子達と一緒に暮らすのはどうだい?」
幼かった私は何を言ってるのか理解しきれなかった。
「そっくり…?」
「うん。夏希みたいに、ご両親がいない子や、仲間はずれになっちゃった子と一緒に、孤児院を作って迎い入れるんだ。」
「…でも、母さん達は帰ってこない」
「あ、夏希…。でもね、」
「じぃちゃんには私の気持ちなんて分かんないよ!!」
「…。」
「ずっとずっと雨が降ってるの!私のせいで、母さん達は死んだ!私が死ねば良かったのに!なんで、違うだけで嫌われるの!」
私は激しい感情のままにじぃちゃんに聞いた。
「こうなるならいっそ…雲みたいにふわって消えちゃえば良かったんだ!」
今思うとじぃちゃんは私が落ち着くまで待ってくれてたのかな。少し間が空いてじぃちゃんは口を開いた。
「…夏希。違うことは怖いよね。夏希の心の雨は、いつか溢れてしまうのかもしれない。そう思って私は提案をしたんだ。トモダチでも出来れば少しは雨も止むかなってね。だけど…気持ちをわかってあげれなくて、ごめんね。」
いつもよりも優しく、雲が月を包み込むときのように柔らかく話してくれた。
「でもね、夏希。夕立って知ってるかい?」
「ゆうだち…?」
「夕方に起こりやすいんだけど、短い時間で激しい雨が降ったらね、その後は綺麗なオレンジ色が広がるんだ。」
「…え?」
「今は激しい雨でも、それはきっと短い間で、その後は綺麗なオレンジ色に染まるよ。希望の色にね。」
「…ほんと?」
「あぁ、絶対だよ。」
この言葉は本当だったのかも知れない。
あの後は孤児院を作って、少しずつ私は笑えるようになっていった。 そして私はオレンジ色に近づくようにって、火炎魔法も習得して、ちょっとずつ変われてきた。
入道雲。夏を代表する雲って言ったらこれじゃないかしら。 短時間に沢山の雨を降らす、夏の大きな存在よね。
表は夏を代表するけど、中身は全く反対の激しい感情を持ってる。ほんと嫌になっちゃう。
でもね、この入道雲が原因で起こる夕立は確かに突然で激しく、苦しいモノだけど…
私はこれを夏の希望だと思うんだ。