テラーノベル
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わかりやすく体温が上がっていくのを、肌で感じながら。
「真衣香」
耳元でそう囁くと、ピタリと動きが止まって。
「ちょっと話変わっちゃって悪いんだけどさ」
坪井はできる限り冷静に、と。昨夜から気にかかっていたことを声にしていく。
「昨日お前を抱きながら、ごめんな。確認してた」
「え……確認って?」
「八木さんはお前を抱いてないね」
真衣香の肩がわずかに揺れる。
(ま、そりゃそうだろ、ビンゴね)
痛みを堪える様子が演技だったと言われれば見破る術はないのかもしれないが。真衣香に限っていえば、ああ言った場面で男を欺くことなどできないだろう。とりあえずのところ、今は。
「二人の関係がほんとのとこ、どうだったかは後にして。間違いなくあの人もお前のことを好きなわけだし、ちゃんと置き土産もあったんだよ」
「お、置き土産……?」
当然、心当たりがないと。そんな声で反応を返してくる。
もちろん、それでいい。
そんなもの思いつかない真衣香でいてくれる方が坪井にとっては有難い。
どういった行為で、どんな刺激を受けた時に”そう”なるのかを知らないでいてくれなければ。
身勝手な嫉妬で過去を問いただしそうになるだろうから。
「首筋と鎖骨下、胸の上あたり」
「え?」
「あざになってる。わかる? いわゆるキスマークってやつね。見えたから」
「……キス、マーク」
呟いたあと「え!?」と悶えたが、腕の中に閉じ込めたままにしておく。
「俺は興味なくてしたことないけど、あれだね。色々あるんじゃん? 独占欲、支配欲、浮気防止のマーキング。でも今回の八木さんのは多分……」
「ちょ、ちょっと待って、わからない、そんなの」
慌てる真衣香の声を敢えて無視して、坪井は話し続けた。
「これ見てもヘマしねぇなら”害がないってことにしといてやるよ”的な、挑戦状か何かかなぁって、思うことにしてるけど」
「へ、ヘマ……?」
「うん、前みたいにお前を乱暴に扱うなってこと」
にっこり、なるべく優しく映るよう笑って、続けて言った。
「でも他にも触られた部分あるよな? お前、わかりやい。俺が触ってるのに、違うこと考えてるってすぐわかるんだよね」
こことか、ここ。坪井は真衣香が不自然に反応を見せていた胸や腰、特に……まだ全てを脱がせ終える前、タイツの上から触れた最も敏感な中心部。その時の反応は異様だった。照れや恐れではなく、後悔が見えるような気がした。
(際どいよな、結構、八木さんが触ったっぽい部分)
「八木さんと昨日何があったの?」
今日くらい、今のこの瞬間くらい。身体を重ね合えた喜びに浸れたらいいのに、そうはできない性分だ。
(でもそれも俺だし)
隠せないし、隠そうとも思えない。きっと真衣香にだけは。
抱き寄せていた身体を少し離して、ころん、と真衣香を転がすようにして体勢を変えた。そして、覆い被さるように組み敷く。
「何って……」
「お前に、こーゆうこと、した?」
言いながら真衣香の胸元、その柔らかな部分を舌全体でゆっくりと舐めた。
「ん……っ、ち、違う……」
「ここも、触られたりしたの?」
固く閉じられていた真衣香の脚を割って、中心に触れる。まだ昨夜の名残があるソコは魅惑的だったけれど、まずはひと通り話し終えなければ。
そう思いとどまって、坪井は小さく深呼吸をした。
「違うよ……、違う。八木さんは……」
「……八木さんは?」
聞かずとも八木は真衣香を抱いていないのだ。答えは大体想像がついているのに。けれども彼女の口から聞きたいと思ってしまう。
(俺も性格悪いな)
それでも、組み敷く真衣香を見下ろし続けた。
どんな冷たい顔してるかなんて、考えたくもないけど。
“これも俺だから知っておいて”
なんて願いも込めているのだから、タチが悪い。
真衣香は本当に面倒な男に引っかかってしまった。
「わ、私が……いつまでもハッキリしないから。認めさせようと、して」
「何を」
「坪井くんのことが好きだって言わせようとして、わざと……ひどいこと」
「ひどいことね」
見てなど、もちろんいないから、本当のところは二人にしかわからない。けれど、真衣香の口から聞く限りでまとめれば『口割らないならこのまま抱くけど、お前ほんとにそれでいいのか?』って、そんなとこなんだろう。
真衣香を大切に思い、”真衣香の幸せ”を優先しようとする八木のやりそうなことだ。
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