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◻︎満たされて
「…よかった…」
不意に口をついて出た言葉。
「よかった、ですか?」
「はい、とても…」
2人並んでベッドの中。
「正直なことを言うと…できるのかなぁと少し心配でした」
「そうなんですか?」
「ええ、もう何年もイタシテないので」
「美和子さんは、とても潤ってそんな感じはしなかったですが…。ホントのことを言うと僕も少々不安でした。なにせ、もう若くはないので」
「そうなんですか?あの、聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「もしも、ですよ、もしもどちらかの何かしらの理由でできなかったとしたら、どうしてましたか?」
「そうですね…」
しばらく考える雪平さん。
「それでも美和子さんが許してくれるなら、こうやって裸で抱き合いたいですね。なんていうか、温もりを感じたいというか。人肌を感じたいのかもしれません。もちろん、誰でもいいというわけではないですよ」
少し照れ臭そうに雪平さんが答えた。
「…なんとなくわかる気がします」
こうやって、肌を重ねるだけでも満たされるのかもしれないなぁと、私も思った。
テーブルに置いたスマホが光って、ブーンとLINEを受信した。
「あ、そろそろ帰らないと」
「そうですか、では、灯りをつけますよ」
「や、待って、小さいヤツにしてください。明るいのはダメですよ」
「はい、はい」
ベッドから降りて、薄暗がりの中で下着を身につけ服を着ていく。
「眉だけ書いていこ」
「もう帰るだけなのに?」
「あまりにもみっともないので…」
簡単にメイクを直して、バッグを持った。
気がついたら、雪平さんも服を着ていた。
「下まで送りますね」
「はい」
エレベーターで一階まで降りて、フロントの前を通り外へ出る。
ホテルの前は大きな通りなので、タクシーはすぐつかまった。
「じゃ、また…」
「はい、おやすみなさい」
昨日まで、どこかささくれ立ってカサカサしてた気持ちが、今は柔らかく穏やかになってる気がする。
_____満たされた
雪平さんの温もりで身体中が満たされて、フフッと笑みが溢れそうなほど、幸せを感じていた。
私も女だったんだなぁと、いまさらながら考えてしまう。
それでも、家の玄関ドアを開けたら、私は田中美和子に戻る。
「ただいま、遅くなっちゃった」
「おかえりなさーい」
息子の聖は一人でテレビを見ていた。
「あれ?お父さんもまだ?」
「うん、遅くなるってLINEきてたよ。俺もう寝るわ」
さっきの家族LINEを見るのを忘れていた。
『会社の若いヤツを送ってから帰る。遅くなるよ』
「はーい、ごゆっくり」
と返信しておいた。
_____若いヤツって、女かな?
チラリと勘繰ってはみるけど、楽しんでるならいいなと思ってその日は先に寝た。