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#学パロ?
44
ユイ
51
「おや、少尉がこんなところに。珍しい」
(あ、この人、上官だ)、と。
心臓が、嫌な音を立てて跳ね上がった。
慌てて珈琲のカップを離し、直立不動の姿勢を取る。
数秒前までの、のん気な自分を殴り飛ばしてやりたかった。
「は、速中少尉です! 失礼いたしました!」
体に叩き込まれた、挙手の敬礼。
緊張のあまり、声が少し裏返ってしまった。
十六歳の僕の体は、未だ大人になりきれておらず、軍服の中で泳いでいる。
恐る恐る、振り返る。
逆光の中に立っていたのは、仕立ての良い軍服を完璧に着こなした一人の男だった。
彫りの深い、端正な顔立ち。だが、その瞳の奥には、戦闘機乗り特有の、すべてを見透かすような鋭い光が宿っている。
僕のガチガチの慌てぶりを見て、その上官はくすりと悪戯っぽく微笑んだ。
「そう身構えるな。珈琲の邪魔をして悪かったね」
男は自らも手元の白いマグカップを軽く掲げてみせる。
「ラバウルの貴公子」――基地内でそんな噂を耳にしたことがあったが、まさにその言葉がこれほど似合う人を、僕は他に知らなかった。
「君が噂の速中か。兵学校を僅か一年半で飛び出してきた最年少の秀才がいると聞いていたが……なるほど、ずいぶんと元気な少尉殿だ」
からかうような口調。けれど、そこには冷徹さなど微塵もなかった。
男は僕の隣まで歩み寄ると、同じように建物の壁に背を預けた。
南洋の熱い風が、男の髪を揺らす。
「笹井醇一中尉だ。今日から君の直属の隊長になる。よろしく頼むよ、速中少尉」
「は、はい! よろしくお願いいたします、笹井中尉どの!」
「だから、そんなに大声を出すな。耳が痛い」
笹井中尉は苦笑しながら、手元の珈琲を口に運んだ。
横顔を見つめる。二十四歳の彼は、十六歳の僕から見れば、圧倒的に大人で、そしてどこか遠い存在に見えた。
「速中。ここは内地(日本)じゃない。学校で習った奇麗事なんて、明日の空じゃ何の役にも立たないんだ」
笹井中尉は、雲一つないラバウルの青空を見上げた。
その瞳に、一瞬だけ、言葉にできないほど深い影が落ちる。
「君のような若い少尉を前線に立たせるのは、上官として、少し胸が痛む。……だが、だからこそ、死なせるわけにはいかない」
中尉は再び僕の方を向き、その端正な顔に、柔らかい笑みを浮かべた。
「ここでは階級も、卒業年次も関係ない。生きて、うまく笑って帰ってきた奴が一番偉いんだ。……いいな?」
僕は言葉を失い、ただ目の前の上官を見つめていた。眩しい夏の光を受けて、笹井中尉の輪郭が、まるで陽炎のように僅かに揺らめいて見える。
この人と一緒なら、どんなに過酷な空でも生き残れるかもしれない。
そんな、確信に似た淡い憧れが、僕の小さな胸を満たしていくのを確かに感じていた。
コメント
3件
うわあああ第3話も最高すぎた…!!😭💕 笹井中尉の「生きて笑って帰ってきた奴が偉い」って台詞、心臓ぶっ刺さった…!!上官なのに厳しさだけじゃなくて温かさがあって、もう完全に推し決定ですわ✨ 逆光の中の佇まいとか、ラバウルの青空と陽炎の描写がエモすぎて何度も読み返した📖💙 速中くんの緊張と憧れが混ざった気持ち、すっごく伝わってきたよ〜!次話も楽しみにしてるね🌸