人間は豚や牛、鶏などの動物や野菜などの植物を殺して口に運んでいる。
今この地球では人間の都合に合わせて街が作られ、法律が作られている状態だ。
しかしその人間を狩る者が現れたらどうなるだろうか。
間違いなく街は破壊されていくだろう。
そしてそれがもし現実的になったら、人間たちはどのように解決へ導くかで、街の崩壊を抑えることも人類全滅にもなり得るだろう。
その日のことはよく覚えている。
忘れてはいけない、大切な思い出だ。
あれは大量の雨が降り注ぐ梅雨時の夕方の出来事。
友達の翔太と二人で、傘をさしながらたわいもない話をしていた。
先ほどまではハンター育成学校『青葉高校』にいて、全て学業を終えて帰っているところである。
彼はS級の力を秘めていて、皆からの人気者。
《レイヴンズ・ネスト》にも一眼置かれていて、実際にミッションをこなしている。
たくさん友達がいて、A級以下の人たちにも優しく接してくれる。
それに比べて俺は、能力がない一般人である。
今も尚能力は開花しておらず、笑われ恥をかいてしまう。
翔太は微笑みながら話題を振ってくる。
「そういや今日見たあの番組凄かったよなぁ! あれってどうやって作ったんだろう?」
「どうせ大手企業の人間が作ったに決まってるよ。だってあそこにはSランクのハンターがたくさんいるからね」
「お前そればっかだな……まぁ確かになぁ〜〜!!」
俺の言葉に対して、彼は苦笑いで答える。
どうやらまたしても悪い癖が出てしまったようだ。
自分よりも遥かに優れた人が作った物を見て嫉妬してしまう……俺の悪い部分である。
この世界には、超能力を扱うことができるハンターたちがいる。
彼らは皆特殊な能力を持っており、社会のために尽くしているのだ。
そして学生の中から、ハンターになることが可能である。
しかし俺は一般人だからな……そんな力は一つたりとも持っていない。
だが彼は違った。
翔太には“重力操作”という力があり、物体の質量を上げることができるらしい。
つまり何かを潰すことも、自らの動きを鈍らせることもできるということだ。
俺がその話を初めて聞いた時、本当に心の底から驚いた。
俺は目を輝かせて、翔太を見る。
「その力があれば、強い敵も楽々倒せるな!」
「ああ。まだそんなに使いこなせていないがな」
「俺なんか……弱すぎて誰にも相手にされないや」
「そんなことねえだろ。みんな、お前の魅力がわからなすぎだわ」
「そんなこと言ってくれるの、翔太だけだぞ」
「だって友達だろ?」
「そうだな」
二人で笑いながら、翔太が肩を組んできた。
傘と傘がぶつかり合い、この雨の日を忘れるくらいほのぼのとした気持ちになっていた。
これが最後の会話だと知らずに。
いつもの交差点で手を振って別れようとした時だ。
俺の背後に強烈な圧力のようなものを感じた。
振り返ると、色白の肌をしたサラリーマンが立っていた。
「あの……何かご用ですか?」
サラリーマンにそう軽く尋ねても返事がない。
それどころか口が裂けて牙が生えてきた。
長い舌を出し、目が真っ赤に濡れる。
「ひっ……」
足が硬直して動けなくなる。
能力を持っていない俺は殺されるに違いない。
相手が口を開けてこちらに向かってきた瞬間、縮こまって震え上がった。
そんな時、翔太が俺を庇い腕を食われていた。
大きな声で叫ぶ。
「いいから、早く逃げろ!!」
「キヒヒ。美味しい肉だ」
苦い顔をしたのも束の間、翔太は腕から食われた。
激痛が走り、叫び声を上げる。
それでも俺は助けることができない。
助けないといけないのに、体が震えて身動きが取れない。
「助けて……くれ……」
左の手を伸ばして震える声で助けを乞うた瞬間、彼の頭が食われた。
怪物は美味しそうに全ての部位を飲み込んでいく。
足まで食べ終わると、怪物は顔と体の形を変えていく。
翔太の顔と体つきに。そして声も同じだ。
震える声で問いかける。
「しょ、翔太……生きていたのか……?」
「直樹……お前も仲間にならないか?」
「な、仲間……?」
「そうだ。僕たちのようなグレムリンにならないか?そうすれば、ずっと一緒にいられる」
「ずっと一緒に……?」
目が眩み、震えが止まらない。
確かに翔太と一緒にいたい気持ちがよくわかる。
彼は唯一俺を認めてくれた親友だ。
翔太の笑顔を思い出したら震えがおさまり、手を差し伸べてしまった。
こんなこといけないのに、否定ができない。
翔太と思われる人物はにこりと微笑む。
「ふふ……いい子だ。では、口の中に入るといい」
大きな口が開かれて、食われた。
それから記憶がなかった。
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