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西暦20XX年9月17日。「グレムリン・エピデミック」と呼ばれる、人類史上最悪の災厄が始まった。
新宿副都心が突如として消失し、代わりに広大な生物膜のようなものが地上を覆う。それは数秒で固着し、やがて人の形に似た巨大な存在が姿を現した。
最初の目撃者は彼らを「空飛ぶクラゲのようなもの」と表現したが、その正体はすぐに明らかになる。人を喰う存在だった。
彼らは建物の隙間から人間を引きずり出し、肉片一つ残さず吸収していく。
奇妙なことに犠牲者の身体は完全に消滅するわけではなく、一定時間後に人間の形で再出現した。かつての人間の記憶と意識を持つ、「グレムリン」と呼ばれるようになった新種の生命体へと変貌していたのだ。
彼らは恐怖を感じない。痛みを知覚しない。確実に知性を持ち、組織的に行動し始めた。
政府はこれを「第二世代地球外知的生命体侵攻事案」と命名し、国際防衛協力条約第18項を発動。人類史上初の大規模対宇宙戦争体制が敷かれた。
人間たちはそれに対抗するために超能力を持ち始め、それらはハンターと呼ばれている。ハンターたちは《レイヴンズ・ネスト》と言う組織を結成した。
しかし圧倒的な数の差と個々の能力の不均衡により、状況は膠着したまま十年が過ぎていた。
俺こと中村直樹はハンター育成学校『青葉高校』に通っていた。この学校には能力の強さに応じて階級が決められており、AからEまでのランクがある。
そして最下位のFランクハンターである俺は、今日もクラスメイト達からのいじめを受けている真っ最中だ。
「おいゴミ虫! お前また教科書忘れてきたのかよ!」
「ちょっと触らないでくれる? あなたみたいな能無しが私たちと同じ空間にいるだけで不快なのよね」
「あーもうマジウザイんだけどー」
廊下ですれ違う度に罵詈雑言を浴びせられるのは、日常茶飯事だ。教室に入るとさらに酷くなる。
机の中にはご丁寧にも大量の生ゴミが詰め込まれており、椅子には画鋲が仕掛けられていた。担任教師すら見て見ぬふりをする始末だ。
当然だろう。Fランクハンターなんて学校の恥晒しだと言われれば、反論できない自分が情けない。
放課後になると更なる追い討ちが始まる。体育館裏へ呼び出されると、そこには上級生3人が待ち構えていた。
「よぉ直樹ちゃん♪元気ぃ〜?」
「相変わらず弱っちい顔してんなぁwww」
「今日は特別メニュー用意してあるぜぇ……ヒャハッ!!」
能力でボコボコにされた挙句、財布まで奪われる羽目に陥ったものの、なんとか命だけは助かったようだ。
それもそのはず。クラスの人気者、翔太が助けてくれたからだ。重力を操って、地面に三人をねじ伏せた。
彼は腕を組んで怒りをぶちまける。
「お前ら、中村さんをいじめるな!!」
「す、すみません……」
「もうしませんから……」
「財布、返してもらおうか?」
威圧的な態度で話しかけると、いじめっ子は財布を返してそのまま逃げていく。地面の土と草の上には、彼らの跡が残っている。
彼は心配そうに話しかける。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。助けてくれてありがとう」
その出来事をきっかけに、彼と仲良くなっていった。
位は違えど親友というものになったが、一年後に翔太は死んだ。俺を庇ってグリムリンに殺されて、そして俺を丸呑みにした。
心臓がドクドクと慌ただしく鳴り響き、翔太の記憶が入ってくる。
両親がいなくなって、施設で暮らしていたこと。そこで酷いイジメに遭っていたこと。生まれつき髪がオレンジ色で、みんなと少し違っていたから暴力を振られていたシーン。
それもあって自分の実力で能力を高めるために運動や勉学に励んで努力し、そしてSランクの実力にまで強くなっていった。みんなからモテるようにもなった。
だから、いじめられていた俺の気持ちがわかったのか。
そしてゆっくりと血液が回り、辺りが真っ白になる。
目を見開くと、そこは病院だった。消毒薬の匂いが充満していて、鼻を摘んでしまう。点滴をしてあって、腕には黒い筋があった。肌は色白で、まるでグリムリンのようだ。
そのまま起き上がると、医者がにこやかな表情でやってきた。
「目が覚めたんですね」
「はい」
「何か変化はありませんか?腕の筋以外に」
「えっと……」
『殺せ』
突然そんな声がした。この声は聞き覚えがある。間違いない。翔太の声だ。そのことについて、医者に話す。
「友達の声で『殺せ』と言ってきます」
「そうなんだね。それは闇の能力だ」
「闇の能力?」
聞いたことない言葉に困惑してしまう。あたふたしていたら、医者が微笑んで両手を掴んできた。
「落ち着いて。闇の能力者はほぼいないんだ」
この医者が言うには、なんらかの理由でグレムリンと融合し自我を保つと、この力を使うことができるという。
どうやらグレムリンに耐性があるらしく、問題なく人間寄りの思考だった。人間を殺すことなどできるわけがない。
「この能力を知られれば、《レイヴンズ・ネスト》も君を直属の部下として雇いたがるだろう」
「はい!」
とても喜ばしいが、あまり笑えなかった。唯一の親友の翔太を無くし、自分の体と同化したのだから。本当は生きている彼と会いたかったのに。
医者が行ってしまうと、窓から外を眺めた。どんよりとした曇り空で、あまり天候が良くない。
梅雨だからというのもある。テレビのニュースにある天気予報はだいたい雨だったから、自然の摂理だ。もう時期、雨が降ってくるだろう。
その場で横になり、眠ろうとした瞬間声が話しかけてくる。
「グレムリンを殺したくて殺したくてたまらないだろ?たくさん殺して僕たちの血肉にしないと」
「うるさい!!翔太の声で話しかけてくんな」
「ふふ、本当に君は頑固なところだけは変わらないな。認めなよ。グレムリンを殺すことに興奮することを」
「そんなわけない。俺は人間を殺さない」
「あいつらは人間じゃない。人間の皮をかぶっているだけだ」
耳を塞いだまま、気分が悪い中で眠りについた。そして夜になって起きると、誰が置いたのか分からない拳銃があった。
「これを使え」という置き手紙付きで。