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第1話 孤独な魔法使い
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チュンチュン
「…ん」
朝。小鳥の囀りで目を覚ます。
なんの鳥かは知らないが、可愛らしい声だなと思う。
窓は開けていないのに、どこからか聞こえて来る声。
幾度となく経験した、朝一番に聞く声。
正確には、鳥の鳴き声だが。
「…もう7時?」
僕は布団を体から引っぺがして、
無理矢理体を起こす。
ひんやりとした空気がほかほかの僕を包んだ。
寒くはないのだが、4月の上旬はまだ
布団でぬくぬくしていたい時期。
いつもなら起きるのに5、10分掛かるのに、
何故だか今日は目が冴えていた。
少し寝ぼけてはいるが、
それも次第に無くなっていく。
いつもは気持ちのいい目覚めとは言えないが、
かと言って昼まで布団でダラダラするのも
良くないだろうと思い無理矢理出ていた。
いつも目が冴えていればいいのにと、いつも
思ってはいたが、実際なると何をすればいいのか
分からなくなってしまう。
とりあえずベッドから出ようとすると、
窓から差し込んで来る日光に、思わず顔を歪めた。
僕は見ての通り日光が苦手だ。それもかなり。
朝の光は特に苦手で、昼に比べると大して
目も冴えていないのにいきなりバッと入ってくる。
いつも目が痛くなるのが嫌で、全部の窓をガムテープかなんかで塞ごうと思った日もあるくらいだ。
急いでカーテンを閉め、
いつも通りの暗い部屋に戻す。
魔法を使い、ほんのりした灯りを付ける。
灯っているものの、それは安定した灯りではない。
あくまでも魔法で作られた簡易的な灯りだ。
けれど足元を照らすだけならば丁度いい大きさで、
よく僕は使っている。
ロフトの階段を降り、クローゼットを開ける。
ギィとクローゼットから音が鳴り、
そろそろ替え時かなぁと使う度に思う。
長袖短パンのパジャマを脱ぎ普段着に着替える。
僕が作った朝の必要最低限のルールだ。
シャツに半袖を来て、短パンを吐く。
これはただの服ではなく、防魔法の服。
あまり市には流通しておらず、かなり貴重らしい。
…らしい、という曖昧な文末になるのは、
この服の防魔法の呪文を掛けたのは
紛れもない僕自身だから。
趣味の魔法研究をしていると、どうしても
服が直ぐに汚れてしまう。
最悪溶けることもあるので、
自分で作ってしまったのだ。
買ったら買ったで、凄く値段が高い、という理由も
あるが、なにより早く自分で使いたかった。
それがなによりもの理由。
◇◇◇◇
「…研究室、行くか。」
一通り朝のルーティーンを終え、
そんなことを呟いた。
ベットメイキングをし、歯を磨き、朝食を済ませる。
やることはやった。
僕の趣味はさっきも言ったけど魔法研究だ。
そのための研究室に僕は今から向かう。
この趣味は、世間の人には認められないらしく、
いつも1人でやっている。
『変な趣味』『頭がおかしい』何度も言われたが、
趣味を変えるつもりなどさらさら無い。
「……」
メイドでも雇おうかと考えた時、
ふいに、目の端に白黒の服が見えた。
それは、ワンピースの
ような形をしたメイド服だった。
一般的にはクラシカルと呼ばれる種類のその服は、
長く洗濯もせずに放置しているからか
暗く長い廊下で、灰色の埃を被っていた。
酷く汚れていて、所々に汚れがこびり付いている。
「…咲……」
自分以外誰もいない廊下に、
呼びかけた名前は頭の何処かにある記憶。
ほぼ無意識に呼んだその名前は、かつての戦友
だったか、メイドだったか、それとも家族だったか。
それすらも記憶にモヤが
かかっているように思い出せず、
心をギュッと抑えてられているかのような
苦しさに駆られる。
メイドも誰も居ない宮殿で、僕はただ1人、
生活をしていた。
◇◇◇◇
研究室の扉を開け、いつも通りランプの火を灯す。
「…『イグニス』」
呪文を唱え、炎を出した。
これだったら電気代はかからないし、魔法は便利だ。
「まぁ、太陽光を入れた方がいいらしいけど…」
僕はそう呟き窓の方を見た。
大きな窓は、あるにはあるのだが
家主である僕が苦手だからという理由で
ここ3年はカーテンを開けていない。
「さてと…前回はどこまで進めたっけな」
使い古されたノートを出し、
前回までの研究成果を確認した。
端から端までびっしりと書かれたノートの端々には
燃え跡が残っていて、それはかつての実験で
失敗した時の傷跡だ。
数年前、火属性の魔法を使い研究をした時に
誤ってノートの方に魔法を発動してしまい、
見事燃えたという訳だ。
幸い燃えたのは一部分のみで、それも
文字を書いていない所だった。
これが文字を書いている所が
燃えてたらと思うと背筋が凍る。
修復にはあまり時間は掛からず、
こうして今も使えている。
「…水をここに入れて…氷を2個入れる…っと、」
「…あ、これも凍るんだ。これも
溶けるだろうなって思ってたんだけど…」
今は水と氷の実験で、
水をこのくらい入れた時、氷を何個いれたら
凍ったり溶けたりするのかを実験している。
実験結果は直ぐにノートに書き記し、
念の為写真も撮る。もちろんカラーだ。
写真がないから信じられない、なんて言われたら
僕も詰むし、なにより記録になるのが大きい。
研究室には簡単に人を上げられないが、
写真なら多くの人に見せられる。
偽造の可能性を疑う人も中にはいるが、
信じる人の方が圧倒的に多い。
証拠としても記録としても、僕にとっては
メリットしかないから撮っている。
これはもうルーティーンもなりつつあって、
最近はカメラを研究室に置きっぱなしに
することもよくある。本当は駄目なんだけどね。
注意してくれる人がいなければ、
こういうことが結構起きてしまう。
けど僕は人が嫌いだし、なにより信用が出来ない。
せっかくメイドを雇ったとしても、
それはたった1週間で終わる。
長くても1ヶ月行くかどうか。それほどまでに
僕にはコミュニケーション能力が
欠落していて、人間嫌いだった。
「…『ファミリア・サモン』」
使い魔を呼び出す呪文。
杖を横にし、魔法陣が出現する。
瞬間、僕の周りを黒色の煙が覆う。
次目を開いた時には、僕の使い魔がそこに居た。
「…カグラ。」
カグラ。僕の使い魔の名前だ。
由来は単純で、僕が見た物の中で
1番綺麗だったのが神楽だったから。
見た目も黒と赤で、いかにも和っぽい。
「…カグラ、そこのフラスコ取ってくれる?」
[キュッ!]
指示を飛ばすと、カグラは直ぐに
フラスコを持ってきた。
口に咥えてはいるが、そのフラスコは汚れていない。
これもカグラを特訓させたおかげか。
「ありがとう。…これを水のエレメントと融合させて、
氷属性の魔法を使えば……」
感謝を伝え、研究へと戻る。
返事は[キュッ]のみで、僕以外に人の声はしない。
カグラは人の言語で話してはくれないし、
僕も特別喋ることは何もない。
最近は少し鼻歌を歌うぐらいで、それも
反応してくれる人がいなければ同じ。
どう足掻いても、僕は1人なのだ。