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臣桜
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上野文
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石階段の上にあったのは、御正宮と似た印象の茅葺き屋根のお宮だ。
「……こういう事を言ったら罰当たりかもしれませんが、那智大社の朱塗りのお宮と比べると地味ですね」
「まぁな。でもさっきも説明した通り、御正宮は二十年に一度建て替える訳だろ? いちいち煌びやかな装飾をしてたら、シンプルに破産しねぇか? 替えるのは建物だけじゃなくて、衣とか道具とか他の物も全部総入れ替えだしな。……それに外宮で最も位の高い御正宮が茅葺きなら、それより格下であるそれぞれのお宮も、それ以下にならないといけねぇんだと思う」
「あっ、確かに……」
私は納得し、ポンと手を打つ。
「この多賀宮は、御祭神が豊受大御神荒御魂だ」
「……豊受……同じ神様?」
首を傾げて尋ねると、尊さんは頷く。
「同じ神様なんだけど、和御魂っていう優しい面と、荒御魂っていう荒々しい、力強い面とがあるんだ。さっきは感謝の気持ちでお参りを……って言ったけど、こっちはもっと俗物的な願いを捧げてもいいと思う」
「なるほどー!」
俗物的なお願いをしたい私はホッと安心し、順番待ちをして参拝する。
そしてゆっくりと階段を下りたあと、来た道を戻って神楽殿の所から左折し、北御門の方へ向かって歩く。
途中、御正宮を横手から見える部分で尊さんが立ち止まった。
「あそこに三角屋根が見えてるだろ。御饌殿って言って、内宮と外宮の神様が一緒に食事をする所なんだ」
「へぇ~!」
「一日二回食事をするのも祭になってて、日別朝夕大御饌祭って呼ばれてる。この千五百年の間、応仁の乱とか関ヶ原とか、どんな事があっても食事を欠かした事がないらしいぞ」
「すごーい!」
もう少し進むと、ロープが張られた向こうに、木の柵に囲まれた建物が見えた。
「こっちが忌火屋殿。食事をするための火をおこす所だが、コンロとかマッチとか使わず、火鑽具っていう……、無人島で使うようなこう……、ロープを三角に張って、板を上下させる事で先端を回転させて、摩擦で火をおこす奴あるだろ」
そう言って、尊さんは両手を握って上下させる。
「ああー! はいはい! 分かります! 木っ端とかを板の窪みに入れる奴ですね」
「That’s right」
へへ……。久し振りにミコ先生のザッツ・ライトをもらった。
「それを毎朝神職の方が、神事として火をおこしているんだ。神道において清浄な火の事を忌火と言う」
「でも、清浄な火なのにどうして〝忌〟なんですか? 穢れてるみたい」
「んー、そもそも火って燃え広がって焼き尽くすもんだろ。だから概念としては穢れになるらしい。伊弉冉尊もカグツチを生んだ時に陰部を火傷しただろ? その辺も絡んでると思う」
「なるほど~! で、神様ってどんなご飯食べてるんですか?」
「食いついたな。せんぐう館に模型があるけど、正方形の入れ物の中に、小さな丸い素焼きの皿が並んで、酒が三つに、米が三つ、魚、鰹節の塊、塩、人参とかの野菜、昆布、みかんとかの果物……が基本みたいだ」
「へぇ~、結構質素ですね」
「まぁ、お供え物だからな。味付けした物より素材の良さを味わってもらいたいんだろう。本当は天照大神は、鮑とか伊勢海老が好物らしいが、特別な時だけだな」
「あっ……、神様であっても世知辛い」
「でも、ご馳走を食べられる時もあるんだ。テレビとかで、白い狩衣を着た神職の方が、大勢ぞろぞろ歩いてるのあるだろ」
「あぁ、はいはい」
「十月十五日に神嘗祭があって、一年に一度、新米とかの穀物を捧げて感謝を述べる祭りなんだ。その時に篠島……名古屋の南にある三河湾で作られた、特別な干鯛とかのご馳走――、由貴大御饌っていう特別メニューを食べられるんだ」
「その模型もありますか?」
「せんぐう館にはなくて、外宮と内宮の間にある神宮徴古館にはあるらしい」
「ほんほん、なるほど」
見てみたい気持ちはあるけれど、時間の都合もあるし、二人だけの旅行じゃないので我慢しておく。
そのあと外宮を出た私たちは、時間を決めて自由行動をとる事にし、外宮参道を散策する事にした。
「……朱里。なんか喰うか?」
「分かってるミコ、しゅきぴ」
一度データが吹っ飛んだ回です。ご査収ください……(泣)。
コメント
1件
お疲れ様です、第858話読みました!多賀宮の解説、特に和御魂と荒御魂の違いがすごく分かりやすくて勉強になりました。私も俗物的なお願いしたいタイプなんで、朱里さんの「なるほどー!」に激しく同意です(笑)。あと、神様の食事のくだりで「神様であっても世知辛い」ってなるの、めっちゃわかります…。データ飛び、本当に大変でしたね…それでも書き直して届けてくれてありがとうございます。次話も楽しみにしてます!