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⚠️光が死んだ夏・ヒカル×よしき・心理的調教・口調、性格違う(多分)
終章 ― 余韻 ―
夜は深く、校舎の窓から差し込む月明かりだけが教室を照らしていた。
よしきは机に肘をつき、静かに呼吸を整える。
心の中には、まだざわつきはある。
けれど、そのざわつきはもはや恐怖ではなく、確かな安堵だった。
ヒカルは机の向こうに腰かけ、よしきをじっと見つめる。
「おまえ、もう完全に従ってるな」
声は淡々としているが、どこか満足げだ。
「……はい」
よしきは短く答える。
その声にはもう迷いはない。
抗えないことを知りながら、それでも安心している自分を、否定する気もない。
教室の静けさの中、よしきは窓の外をぼんやり見つめた。
夏の夜風がカーテンを揺らし、外の世界の音をかすかに運ぶ。
外の世界は自由で、選択肢が無限に広がっている。
でも、よしきの心はもうそこにない。
選ぶべき道も、迷う必要も、すべてヒカルの言葉に委ねているのだ。
「おまえは……救われたんだろうな」
ヒカルの呟きは、何を意味しているのかはわからない。
救いか、それとも堕落か。
よしき自身もまだ、答えを出せないまま、ただ静かに頷いた。
胸の奥で、恐怖と安堵が絡み合う。
もう自分の意志で動けないことを知りながら、
それを受け入れることで、心は妙に軽くなっていた。
ヒカルの視線に縛られ、言葉に従う。
それは、もはや苦痛ではなく、安らぎに近い感覚だった。
「……もう、戻れないんだな」
小さく呟いた声に、ヒカルは微笑むだけ。
「その通りだ。だが、おまえはそれでいい」
よしきは視線を下ろし、机に額をつける。
心の奥で、何かがほどけ、同時に深く縛られる感覚。
恐怖でもなく、自由でもなく、ただ静かで強い安心感。
それが、自分にとっての救いなのか、堕落なのかはわからない。
教室の空気は、静かに流れ続ける。
窓の外の月光は、二人の影を長く伸ばし、
支配と従属の関係が永遠のように教室に溶け込む。
そして、よしきは初めて心の中で実感した――
逃げられないことを知りながら従うことが、こんなにも心を満たすのだと。
終わりのない夜のように、二人の時間は静かに続いていく。
救いか堕落か、その答えは誰にもわからない。
ただ、よしきの胸に流れる安堵だけが、確かな現実だった。
─完─