母親のポケットから出れるようになった怖がり子カンガルーのマーラは、母親の側で色々なことを勉強しました。食べれるもの、食べてはいけないもの、危険、誰が危険か、どうすれば生きられるか、などの生きるすべを学びました。しかし、時には身を持って勉強し、経験することもあるのです。
ある秋の近づいた冬。マーラは少し大きくなりました。みんなでゆっくり、草を喰んでいます。
ザザッ、ダダンッ
仲間の大きな足音と嗅ぎ慣れぬ匂いがして、マーラとロワナはつられて走り出した。みんな、なにかから逃げています。「いい?絶対に振り返っちゃだめだからね。死に物狂いで走るんだよ。」そうささやかれた気がして、マーラは母、ロワナと並んで走った。そして絶対に振り返ることはなかった。
やがて群れは走るスピードを緩め、少し走って止まった。なぜなら敵は追いかけていなかったからだ。そこでマーラは初めて自分たちを追いかけてきた天敵の正体を知った。ディンゴだ。ディンゴはオーストラリアに住む、野生の犬。元々は普通の飼い犬だったが、野生化し、完全な野生動物としているという。しかし、毛柄のバリエーションがそこそこあり、色は柴犬のような色がほとんどだ。群れが見つめる先には何匹かのディンゴと群れの仲間、いや、群れの王、バミルがいた。
バミルは立派なオスのカンガルー。力は強いし、首を締めることも、蹴倒すことも、パンチすることもできる。尻尾はとても強い筋肉でできているから、尻尾で立ち上がって両手両足で攻撃することだって可能だ。体力ももちろんある。だが、数ではとうていかなわない。ディンゴだって体力はあるし、力も特に噛みつく力は人間よりは強い。そしてとてもしつこく、執念深い。ハイエナそっくりなのだ。
まるで興味のなさそうにバミルの周辺をうろちょろして匂いを嗅いでいたほぼ柴犬のディンゴが、バッといきなり飛びかかった。
バミルは突然の背後からの不意打ちを交わしきれなかった。蹴ろうとするが、それを合図に他のディンゴも次々と襲いかかった。カンガルーたちは、ただ固まって見ているしかなかった。ディンゴのチームワークはすごかった。誰が獲物のどこを狙うというのがはっきりしていた。バミルに不意打ちを食らわせたディンゴ、エターナルは群れ一番と言っていいほどの狩人だった。エターナルは興味なさそうにして、油断させ、背後から不意打ちをくらわせる。そして、獲物を抑えて首に噛みつく役だった。
こうしてバミル王は果てた。ディンゴに襲われて。ほんのちょっとのはずの油断が生死、そして残された群れに大きく関わった。
コメント
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やっぱ貴方の描く小説は面白いよ