「PTSDだよな。」
「は?」
まさか、PTSDだとバレているとは思っていなかった。
「なんで分かんの!?」
思わず、俺は大声ではるか君に聞き返してしまった。
「い、いや、別に前にいた友達がパニック障害持ちだったから、玖遠のことを見てたらなんか思い出してさ。もしかしたらと思って…。変なことではないから。」
ただ周りからそう見えていただけであり、少し安心したが、そう思わせてしまったことに対して、俺は少し申し訳ないと思った。
それから、俺はトリガーや過去について簡単にはるか君に話し、その後も長い間雑談をしていたと思う。
散り始めている桜の木に風が吹き、桜吹雪が地面に覆いかぶさるかのようにはらりと落ちていった。
誰かに、自分の辛いことを言えたのは初めてかもしれない。
さっきよりも明らかに気が軽くなったように感じた。
「なぁ。俺、将来、臨床心理士とかカウンセラーになって、心に問題を抱える人を助けたいんだ。玖遠みたいな人とか、ほかにも…、俺みたいな人も。」
「え?俺みたいなって?」
さっきの話の口ぶりから、はるか君の環境や心に問題は無いと思っていたが、はるか君が言った、『俺みたいな』という言葉に俺は動揺を隠せなかった。
「えッ、あ、えと、、お、俺も多少障害持ちだからさッ。も、もう5時半だから、俺帰るわ。明日の放課後もここに来てくれ!じゃあな!」
すごく焦っていたように見え、違和感をおぼえたが、向こうにも事情があるだろうと思い、あまり深堀りはしないようにしようと思った。
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はるか視点
俺はこの日、学校を早退したため、近くのカフェで時間を潰すことにした。
そのとき、ある青年が窓を見ながら泣いているのを見かけた。
最初は無視しようと思っていたが、その青年を見ていたら、なんだか昔の友達を思い出した。
正義感だけは強く、ありのままの自分で生きようとする、そんな奴だ。
俺はこのとき勇気を出して話しかけてみたが、上手く行かなく、帰りには少ししょげていた。
でも、次の日の朝、まさか向こうから話しかけてくるとは思っておらず、驚いたが、この話すチャンスを逃す訳にはいかなかったため、俺は放課後、公園に来るよう言った。
公園で彼の名前を聞いた。
一堂 玖遠というらしい。
玖遠にPTSDかどうかを聞いたところ、案の定あっていたそうだ。
それからしばらく雑談をしていたが、その中で将来について話していたとき、俺はうっかり、『俺みたいな人も助けたい』と言ってしまった。
焦ってしまい、俺はその場を走ってはなれた。
「秘密にする…つもりだったのに…。」
そう思いながら、歩いていたら、あっという間に家についてしまった。
「はぁ〜…。やだな…」
ガチャ…
「お母さん、ただいま。」
、、、、、
「あら、はるちゃん。おかえり!」
俺はこの生活に嫌気がさしていた。
だって…、
俺の本名を漢字で書くと 凪 晴香 となる。
いかにも女の子という名前だ、いや…、実際、俺の戸籍上の性別は女だ。
だが俺は、性自認と実際の性別が一致しない、いわゆる…、
性同一性障害だ。
___さかのぼること3年前
俺は小学5年生の夏、ある疑問をおぼえた。
俺は女であるべきなのか?
そのときの一人称はまだ俺ではなく、私と言っていたが、私というたびに違和感ばかりが募っていった。
小さい頃から、女の子の遊びにはほとんど混ざらず、服も女物の場所ではなく男物の服が置かれている服を欲しがっていた。
俺は不安になり、家族に相談してみたが、
「そんなの気のせいよ。」と相手にされなかった。
唯一の味方は俺の姉と、小6の時にできた昔の友達だけであり、二人だけは俺のことを肯定してくれた。
だけど、もう…。
それから俺は、家族の前で『俺』などというと怒られるため、仕方なく女の子の服を着て、言葉遣いも女っぽくした。
今までこの障害を隠して過ごしてきた。
正直、俺は、男に生まれてきたかった。
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、、、
だけど、玖遠は最初から俺のことを男の子と言ってくれた。
気づいていなかったのだろうか、いや…、本当に男の子だと思っていたんだろう。
だけど、俺はうれしかった。
俺のことを男として肯定してくれた数少ない人だから。
だから、俺は玖遠と友達になりたい。
明日の放課後、玖遠にこのことを話しに行くつもりだ。
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「玖遠は…、まだか…。」
俺は早く玖遠にこのことを話したかったため、学校が終わってから、走って公園まで来てしまった。
俺が公園に着いてから、10分程経った時、玖遠の姿が見えた。
「玖遠!あの、今日話したいことがあるんだ。」
「ん?何?」
俺は玖遠に隠していたことを、勇気を出して声に出そうとした。
「…、あッ、ありがとう!!」
「え?急になんのこと?」
玖遠は急な感謝の言葉に驚きを隠せていなかった。
「(でも今日こそは言うんだ。本当の俺について…。)」
「俺、初めて玖遠に会ったとき、俺のことを男の子って言ってくれて、嬉しかった!」
今までモヤモヤしていたことをようやく話せたため、思わず大きな声で叫んでしまった。
「はるか君って男の子なんじゃ…。」
「隠しててごめん。俺、本当の性別は女なんだ…。だけど、俺の障害、性同一性障害だから…。玖遠に男の子として接してもらえて、本当に心が救われたんだ。だから、本当にありがとう!」
その瞬間、もうすぐ全て散ってしまいそうな桜に清らかな風が吹き、花びらは遠くの方に飛んで行ってしまった。
まるで、俺が抱えていたことを空に吹き飛ばしてくれたかのように…。
「だから…、その、友達になっても良い?」
こんなことを言うのは、初めてだったから、緊張していたけど…、
、、、
「もうとっくに、俺らは友達だって!なぁ、”晴香”?」
”晴香”、
「…、」
「うん!玖遠!」
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両方視点
こうして俺らには友達ができた。
どちらも、障害持ち同士だ。
だからこそ、分かち合える。
こんな不条理な世界でも幸せを感じることができるのかもしれない…。
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