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金沢市街地の溢れるような夜景が眼下に広がる卯辰山の見晴し台の駐車場の暗がりに1台のタクシーが止まっている。ボディには106の文字がペイントされ、助手席にはドライブレコーダーから抜かれたSDカードとやや厚みのある銀行の封筒が無造作に置かれていた。
後部座席に上下する暗闇に浮かび上がる白い脚、時折痙攣したように小刻みに揺れる。エアコンの風に舞い上がる甘ったるい飴の匂いに男の汗臭さ。
「あ・・・・あ・・あ!」
「まだだ、もっとだ。まだイクなよ」
(また尻に爪痕付けられちゃまずいしな)
西村はそれを一旦引き抜くと、ハンドルを扱うような仕草で朱音の身体を裏返しその尻をぐいっと引き寄せた。
「・・・・!」
その華奢な背中に舌を這わせながら反り返ったそれを淫部へとズブズブと押し込み激しく突き上げる。その動きから自然と逃げようとする腰を両脇から掴むとまたひと突きし、小さな胸が後部座席のシートに押し付けられ上下した。
「に、にしむ、西村さ・・」
「何だよ」
「あ・・・がと・・っ!」
そんな感謝の言葉が通じているのかいないのか西村は朱音の淫部を壊れんばかりの激しさで突き上げ続け、グチャグチャと滑る音がやがて吐息に混ざる。そこに愛情など微塵も感じられないが、朱音はその痛みが生きている証とばかりに西村にされるがまま、痛みとも快感とも取れない感覚を受け入れ続けた。
「・・・・・ん、ん」
薄い陰毛を掻き分け朱音の膣口に抜き差しされるそれをじっくりと眺めながら、押し寄せる興奮の坩堝に酔い痴れた西村はこの《《契約》》は大当たりだったとユーユーランドのババァに心底感謝した。
「朱音、お前最高だよ」
「にっ・・し・・・」
「好きだよ・・あか・・ね」
「・・・・・!」
出し入れされる刺激に耐えられなくなった朱音の膣がそれを締め上げた。快感に翻弄された西村は亀頭を抜くことさえも忘れて朱音の中で絶頂に達し、白濁した液を吐いた。朱音の淫部から太ももに掛けて生温い白い筋が流れ伝い後部座席のシートに垂れる。
何も考えられなかった。西村は勤務する事さえ忘れ、何処までも快感に溺れて40万円という《《契約》》を堪能し尽くしていた。
また朱音は自分の背中に倒れ込んだ西村の汗の滴、体の重みとその熱量、速る心臓の鼓動に幸せを噛み締め、彼が自分を愛しているからこそ膣内に射精したものだと信じて疑わなかった。
エアコンの効いた車内に2人の激しい息遣い、フロントガラスの端がうっすらと霞んで曇る。西村はタクシーの外に出て、それに纏わり付いた朱音をティッシュで拭き取るとボクサーパンツを上げ、スラックスを履いてチャックを閉めた。
「西村さん、これでもう《《そんなお店》》で働かなくても良いんだよね?」
「おう」
「他の人としなくて良いんだよね?」
「そうなるな」
カチャカチャとベルトが光を弾き、暗闇にポッとライターの火が着いて煙草の煙が辺りに漂い始める。
「利子、”おばあさん”の所であと5回働いたら無くなるって」
「良かったじゃん」
車内では朱音がそろそろとブラジャーのホックを留め、赤いワンピースを頭から被っていた。
「痛っ!」
朱音のふくらはぎが何かに引っ掛かった。
「どうした?」
「何かに当たったの、血が・・・出ちゃったみたい」
煙草を路上で踏み消した西村が後部座席の室内灯を点け、朱音の足元を確認する。
「あぁ、これか。すまん」
一目で後部座席下の金具が飛び出ているのが確認出来た。後部座席の背面シートカバーを取り替える際は座面を1度外してからその中にカバーを押し込まなくてはならない。その座面を元に戻した時にゴムを引っ掛ける金具が上手く収まっておらず、それが朱音のふくらはぎを傷付けたのだ。
「これ、何?」
「この白いカバーのゴムを引っ掛ける金具」
「ふーん」
「ここ、隙間があるから客の財布とか携帯電話とかハマる事あるんだよなぁ。ちょっと退いて」
西村が慣れた手付きで座面をガッガッと外して見せる。
「ね。簡単っしょ?」
「へぇ。この椅子、外せるんだ」
朱音が屈んで中を見ると、確かにそこに隙間があった。
「そそ、中は空っぽ。シーツ交換してると小銭とか結構出て来るんすよ」
「チップだね」
「そうっすね」
西村が上半身の力を2つの手のひらに込めて後部座席の座面をグッと押し戻す。
「こんな簡単に出来るのね」
「あぁ、女のドライバーも居るけど皆んなフツーにやってるよ」
「ふーん。私でも出来る?」
「あぁ、お前の馬鹿力なら簡単さ」
「酷い!」
冗談抜きで《《金魚》》だった頃の朱音の握力はその見た目よりも遥かに強く、タクシー乗車中に|ハイテンション《発作を起こした》になった彼女に首を絞められた北のじーさんは身の危険を感じたと言う。
今の朱音からは想像も付かない、ただ大袈裟に吹聴しているだけなのでは無いだろうかとそんな気さえする。
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