テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
あああああぁうあ 翠っちゃんが救われる時は来るのかかか待ってるからななな
夕飯の時間。
テーブルの上には
湯気の立つ料理が並んでいるのに、
箸の音だけがやけに響いていた。
学校から戻ってきた
桃、茈、赫。
三人とも、どこか疲れた顔。
「……結局さ」
赫が、味の分からなくなったご飯をつつきながら言う。
「証拠は“ある”けど、
誰が出したかは教えられない、だって」
「本人の同意がないと無理、の一点張りだったな」
茈が淡々と続ける。
「守秘義務ってやつか」
桃は腕を組んだまま、低く息を吐いた。
「……腹立つな」
「俺があんな目に遭ってんのに、
“誰かが代わりに”って何だよ」
赫の声には、怒りよりも混乱が滲んでいた。
「そんなこと、
普通しないだろ」
その言葉に。
翠は、箸を持つ手をほんの一瞬だけ止めた。
——普通じゃない。
——そうだよな。
でも誰も、
その一瞬に気づかない。
黄は赫の皿を見て、
「ちゃんと食べて。今日は疲れたでしょ」
と優しく声をかける。
瑞も、
「赫くん、無理しないでね」
と、いつも通り。
家族の空気は、
完全に赫中心で回っている。
翠は、
その輪の中にちゃんと座っているのに、
どこか透明だった。
「……それでさ」
赫が、ふと顔を上げる。
「その証拠の動画、
俺がやられてた時期“以降”のものらしい」
「以降?」
桃が眉をひそめる。
「うん。
俺が保健室登校に切り替えたあたりから」
茈が考え込む。
「じゃあ、
その頃に狙われてたのは……」
言いかけて、止まる。
でも、
その先に“翠”という選択肢は、
誰の頭にも浮かばなかった。
「……別の誰かだろ」
桃が言い切る。
「同じ学年か、
関わりのある生徒」
赫も、苦く笑う。
「俺より強いやつかもな」
その瞬間。
翠の首元で、
シャツの襟が、ほんの少しずれた。
薄く残る傷。
でも、
誰も見ていない。
見ていても、
「気のせい」で終わる程度。
灯台は、
明るすぎると足元が見えなくなる。
「……」
翠は、何も言わない。
言えない。
(俺のことなんて、
考えなくていい)
(守れてるなら、それで)
そう思いながら、
胸の奥が、少しずつ削れていく。
夕飯は、
最後まで“普通”に終わった。
誰も泣かない。
誰も気づかない。
この家の中で、
一番壊れている人間だけが、
静かに笑っていた。