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俺がマナにプロポーズをしてから1年が経った。この1年という短い時間ではあったけど、数え切れないくらい沢山のことをした。色んなところに遊びに行ったし、ショッピングもした。泊まりで旅行にも行った。マナが行きたいというところには殆んど連れて行ってあげた。また、今までなら絶対にあり得ないことだけど、俺の行きたいところにも率先して付き合ってくれた。自分のことよりも俺のことを優先してくれるようになった。それに最も苦手な料理やも俺のために一生懸命やっていた。俺を想ってくれているのが一緒にいるとヒシヒシと伝わってきた。マナは俺を心から愛してくれていた。マナを幸せにしてあげようと思っていたのに、俺が幸せをもらっているかのようだった。でも未だに籍は入れてなかった。何故なら籍を入れるならマナの誕生日にしようと2人で決めたからだ。とは言え、結婚の準備は順調に進んでいた。結婚式場はマナが結婚情報誌の中から数件選んで、一緒に下見に行って決めた。ウェディングドレスもマナのお気に入りのデザインのものをチョイスして決めた。
5月29日――
今日はマナの誕生日。俺が仕事を終えてから2人で役所に婚姻届を出しに行く約束をしていた。3ヵ月後は結婚式の予定だった。
「じゃあ、行ってくるよ。仕事終わったら、電話するから」
「うん、行ってらっしゃい」
「何? 俺の顔に何かついてる?」
マナが俺の顔をジッと見ていたので聞いてみた。
「うぅん、何があっても今日籍入れようね」
「わかってる」
「圭ちゃん――」
「今度は何だよ?」
「行ってらっしゃいのキスさせて!」
「あぁ――」
そして俺たちはキスをした。とても幸せのはずのキスなのに、なぜか胸がジーンとするような不思議な気持ちにさせられた。
「やっぱりさ、仕事終わったら迎えに来るから家で待ってていいよ」
「大丈夫だって! 私、もう子供じゃないんだから迷子になったりなんかしないって!」
「マナだから心配してるんじゃないか」
「本当に大丈夫だから駅で待ってて」
「わかった、気を付けてな」
何か妙にマナが心配でいられなかった。その日は、仕事をしていても何となく落ち着かなかった。それは今日、区役所に籍を入れに行くという理由も当然あったけど、今までに感じたことのない妙な胸騒ぎが常に付きまとい穏やかでいられないのが1番の原因だった。それでも何とか1日を乗り切り、約束の待ち合わせ場所に向かうことが出来た。時刻は17時半を回っていた。マナもそろそろ家を出る頃だろう。
プルルルル――プルルルル―――
しばらく車を走らせていると胸ポケットに入れたスマホの着信音が鳴り始めた。嫌な予感がしたので、車を路肩に寄せて停車した。スマホの画面を見ると、マナの母親からだった。
『もしもし――』
『圭太くん、今どこにいるの?』
『今、車で駅に向かってる途中です。どうかされたんですか?』
『直ぐに東帝大学病院に来てちょうだい』
『病院? まさかマナに何かあったんですか?』
『駅の階段から転がり落ちたの。命に別状はないけど、意識が戻らないのよ』
『意識が――ほっ、本当に命に別状はないんですね?』
『大丈夫よ』
電話を切ると直ぐに病院に向かった。