嫌な胸騒ぎがしていたのは、このせいだったのか――。
それから10分程度で病院に到着した。車から降りると逸る気持ちを抑えて、マナの病室に向かった。
トントンッ―――
「どうぞ!」
「失礼します」
病室に入ると直ぐに、ベッドに横たわっているマナの姿が目に飛び込んできた。
「マナ――」
俺はマナの元にゆっくりと歩み寄ると、ベッドの横で膝をついた。
「俺のせいだ。無理矢理にでも家で待たせておくべきだった。マナ、ごめんな――」
「圭太くん、命に別状はないから自分を責めないで」
マナの母親は俺の肩に手をのせると、そう言って慰めてくれた。
「でも、俺が家まで迎えに行ってたら、こんなことにはならなかった」
悔しくて情けなくて、涙が溢れ出してきた。
「けい――ちゃん――どうし――たの?」
「マナっ!」
「マナちゃん!」
俺とマナの母親は驚き、仰向けで寝ているマナの顔を覗き込んだ。
「マナ――俺が誰だかわかるか?」
「何言ってるの? 圭ちゃんに決まってるじゃん。それより、もしかして泣いてるの?」
「泣いてなんかない。それより、どこか痛くないか?」
「どこも痛くないよ。この通り全然へいっ――」
「マナっ!」
マナがベッドの上で体を起こそうとしたので、強く抱きしめた。
「今日の圭ちゃん、ちょっと変だよ」
「いつもと変わらない。ただ、俺のせいでマナがこんな大怪我をしてしまって本当に申し訳ないと思ってる」
「私、ケガしてるの?」
「そうだよ。待ち合わせをしていた駅の階段から転げ落ちて全身を強く打ち付けてしまったんだ」
「そっか――でも私、何しに駅に向かってたんだっけ?」
「覚えてないのか? 今日、区役所に籍を入れに行く約束をしてたじゃないか」
「区役所に籍を入れに?」
マナは首をかしげたりして、何かを思い出そうと必死に考えていた。
「思い出せないか?」
「うん、全然ダメ――。でも、区役所に籍を入れに行くってことは結婚するってことだよね? 私誰かと結婚するの?」
「そっ、それは――」
マナの記憶の1部がなくなっているのは話をしていて何となく感じていた。
「そうだ、私、荻野さんと結婚するんだよね?」
「えっ!? そっ、それは――」
「私、思い出した――結婚するんで荻野さんと一緒に住んでるんだった」
よりによって俺と一緒にいた時間の記憶がないなんて――。しかも、話している限り、マナの記憶は荻野さんと付き合っていた頃まで遡ってしまっている。
「荻野さんは? お見舞いには来てくれてないの?」
「マナちゃん、今あなたが婚約してるのは明石くっ――」
「お母さん、その話は――」
真実を話そうとする、マナの母親の言葉を慌てて遮った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!