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大丈夫だってわかっていても、ソワソワしてしまう。
蒼さん、まだ帰って来ないかな。
彼から<先に寝てて良い>と言われても、どうしても顔が見たくて、起きて待っていた。
菫さんの話、どうなったんだろう。
ジッとしていられず、リビングのソファーに立ったり座ったりしていた。
その時――。
<ガチャッ>
玄関のドアが開く音がした。
蒼さんだ!
いつものように、駆け足で玄関へ迎えに行く。
「おかえりなさい!」
靴を脱いでいる蒼さんに声をかけると
「ただいま。帰るの遅くなってごめんね」
一歩、廊下に入ったところでギュッとハグをしてくれた。
嬉しくて私も抱きしめ返す。
「菫のことはもう大丈夫だから。蘭子さんがちゃんと話をしてくれた。だから安心して」
良かった。
いつもの蒼さんだし、きっと二人で上手く話し合いができたんだ。
「はい。良かったです。ケンカとかになって、蒼さんがケガしちゃったらどうしようかと思ったけど……。無事で」
「ケンカにはならないかな。あっちが一方的に怒ったけど、大丈夫だったよ」
よしよしと頭を撫でてくれる。
嬉しいけど、廊下でいつまでもこんなことしてたら迷惑だ。
「蒼さん、お風呂入って来ますか?その間に、夕ご飯準備しておくので」
彼から一旦離れる。
「ありがとう。お風呂行ってくるね。桜は寝てて良いから」
もう一度私の頭をポンポンしてくれた後、彼はバスルームへと向かった。
本当に良かった。何もなくて。
私はスッキリした気持ちで夕ご飯の支度をし、彼がお風呂から上がってきた時に「おやすみなさい」の挨拶をして自分の部屋へ戻った。
私が起きていると、蒼さんが気を遣ってくれるし。
またゆっくり話を聞こう。
蘭子ママさんにもお礼を言わないとな。
遥さんとまた一緒にSTARに行きたいな……。
そんなことを考えながら私は眠りについた。
それから――。
何気ない日常を送っていた。
菫さんがお店を辞めたと聞いた時は、少し複雑な気持ちになったけれど……。
「桜は何も気にしなくて良いから。みんな感謝してるよ。言い辛いことを教えてくれてありがとな」
蒼さんからそう言われて、プラスに考えることにした。
蘭子ママさんからも、また遊びに来てほしいと言われているし。
こんな良い人たちに出逢えて、大好きな彼氏までいて……。
今日、蒼さんが仕事がお休みだから、早く帰ってゆっくりお話したいな……。
経験したことない幸せな日々が続き、何か罰が当たるんじゃないかと思っていた時だった。
私はいつも通り仕事が終わり、最寄り駅まで一人で歩いて帰るところだった。
「桜!」
後ろから名前を呼ばれた。
この声――!
ドクンドクンと心臓が嫌な意味で脈打つ。
振り向きたくない、聞こえないフリをしようか。
逃げる選択をしようとしていた時
「おい。桜!」
もう一度名前を呼ばれた。
私の勤めている会社は知っているし、ここで逃げたらまた来るよね。
話だけなら、聞いても大丈夫だよね……。
振り返り
「優人……」
元彼の名前を呟いた。
彼はニコッと笑い
「久し振り。元気だった?」
そんな優しい言葉をかけてきた。
震える手をギュッと握り締める。
「元気だよ。こんなところでどうしたの?」
単なる偶然であってほしかった。
「桜には、本当に迷惑かけて。悲しませて。困るようなことをして……。謝りたくて。そこのファミレスで良いから、少しだけ話せないか?」
嫌だ。怖い。
優人と二人きりになんてなりたくはない。
謝ってほしくなんかない、もう関わらないでほしい。
「ごめん。今日、用事があって早く帰らなきゃいけないの」
無難な嘘をついた。
彼は一瞬怪訝な表情をしたかと思うと
「そっか。じゃあまた今度、時間を作ってほしい。ちゃんとした話をしたいんだ」
時間を作る?何のために?
「ちゃんとした話ってなに?私たち、もう終わってるんだよ。私はもう話すことなんてないから」
付き合っていた頃には言えなかった、自分なりの反抗。
優人に伝わっただろうか。
「じゃあね」
私はもう一度振り返り、帰ろうとした。
「桜。本当にごめん。よりを戻したいとかじゃない。金を返したいんだ。桜の金、かなり使っちゃったし。それで今も不自由な生活を送っているんじゃないかと思って。誰かから金を借りたりしているんじゃないかって心配で」
お金を返してくれる?
優人が使った私のお金が少しでも返ってくれば、蒼さんや遥さんに家賃とか返すことができる。
食費だって、光熱費だって、お世話になった分、ちょっとは渡せるんじゃ……。
「本当に返してくれるの?」
勇気を出して問いかける。
「ああ。ボーナスが入ったし。ただ大金だから持ち歩くのが嫌なんだ。今度時間を作ってほしい。今みたいな仕事終わりでも良いから。また連絡するよ」
どうしよう。
人がたくさんいるところなら、優人だってさすがに何もできないよね。
「わかった」
私が返事をすると
「また連絡する」
彼は手を振って私とは違う方向に歩いて行った。
複雑な気持ちで帰宅をする。
蒼さんに相談しようか?
でも蒼さんなら「そんなの要らないから。会うな。危ないから」って言いそう。
遥さんも同じこと言いそうだし。
私一人のせいで、食費とか絶対増えているし、光熱費や雑費だって――。
借りていた分まとめて返せるかも――?
「桜、どうした?」
玄関で立ち止まり、靴も脱がないでいた私に蒼さんが声をかけてくれた。
「あっ。蒼さん!ただいまです」
「おかえり。お疲れ様」
靴を脱ぎ、廊下へと進む。
蒼さんはお帰りのハグをしてくれた。
いつもは私がおかえりなさいと迎えている立場だから、この瞬間は新鮮だ。
「で、何かあったの?」
さすがは蒼さん。鋭い。
優人のことはどうするか頭の中でまとまっていない。
どうしよう。
菫さんのこととかもあったし、また心配かけるのもイヤだ。