「ごめんなさい。仕事のことで……。明日の段取りとか考えていたら、ボーとしちゃって」
自分の嘘に罪悪感を覚える。
その時――。
「あああああおいさんっ!?」
どんどん蒼さんとの距離が近くなっていく。
私は壁に背中がつき、これ以上後ろに下がれない。
あっ。これは、いわゆる壁ドンってやつじゃ。
「なんか様子が変だから。ホントに何もない?」
いつもハグしているのに、ギュってしてもらっているのに、これはこれで蒼さんの顔が近くてドキドキする。
「ほほほほほんとうですっ!大丈夫です」
「そっか。なら良いんだけど」
蒼さんが離れてくれた。
うん。これで良いんだ。
蒼さんには優人の話なんかしたくない。
優人からお金を返してもらった後に、しっかりと事情を話そう。
一週間後――。
優人に連絡をし、退勤後、私の会社近くのファミレスに来てもらうことになった。
会うことなく、銀行に直接振り込んでほしいことを伝えたけど
<直接会って謝りたい。俺が持っていた桜の私物も返したいし>
という連絡が来た。
私物について聞いたけど、それについて返事はなかった。捨てたと前に言われたけど。
いろんなものを前の家に置いて、急に出て行くことになったので、私の私物の一つや二つ、どこかに残っているだろうし。
ファミレスに入ると、もう優人は店内にいた。
早いなと思いつつ、向かい合わせで座る。
「お疲れ様」
そう声をかけられた。
「お疲れ様」
嫌な沈黙が続いた。
「ドリンクバー頼んでおいた。桜の好きなアイスティーを持ってくるよ?」
えっ。
ドリンクバーとか別にいいのに。
ワンドリンク何か頼んですぐ出て行くつもりだった。
しかも持ってくるって。
付き合っていた時は、飲み物を持って来てくれるとか、絶対に無かったのに。
優人でもそんなことできるんだ。
「いいよ。自分で持ってくるから!」
私が立ち上がろうとすると
「座ってろって」
そう言われ、制止された。
仕方がなく座って待っていると、優人はアイスティーを持ってきてくれた。
「最近、どう?別れてからどんな生活しているの?」
席に座った途端、そんな関係ない話をされた。
最近どうってあなたのせいで私は――。
いや、こんな人と付き合っていた私が悪いから、何も言えないや。
私はアイスティーを一口飲み
「幸せだよ。とっても。お金の面で迷惑をかけている人がいるから早く返してほしい」
そう伝えた。
「そっか。良かった。俺はさ、桜がいなくなって正直後悔してる。自分のしてきたことに。彼女だっていないし……」
あれ、女の子と映画館でデートしているところを蒼さんが見ているのに。
その人とは付き合っていないのかな。