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叶う訳が無い、叶ってはいけない。頭では分かっていた筈でも心はそう簡単にはついていけなかった。
「……っ…」
とにかく家に帰りたい一心でスピードを出していると標識に突っ込んでしまいバイクから投げ出された。立ち上がる気力は残ってなく、道路のど真ん中に座って僅かに残っている意識を保つ為に包帯を巻いた。
「…………なにやってんだよ俺は…」
出血が止まっても動けずその場に座っていると心無きの車にクラクションを鳴らされた。やっとの思いで腰を上げ人気の無い場所に行こうと辺りを見回す。フラフラになって何度も転びながら近くの路地裏まで歩き、辿り着いた瞬間崩れ落ちた。
「ぃって……はぁ…」
目に入った空は星が瞬き輝いていて、自分の汚さや醜さとの対比に喪失感、虚無感が押し寄せてくる。その場に寝っ転がりうずくまると気を失うように寝てしまった。
「おーいはくさーい、大丈夫かー?」
声が聞こえてきて目を開けるとうっすら見覚えのあるペンギンが顔を覗き込んできていた。
「…貴方は…どうしてここに?」
「そこの道走ってたら見えたから。なんでそんなボロボロなん?お前医者じゃなかったっけ?」
「医者は怪我しないとでも思ってるんですか?」
「違うわ、医者の癖に自分の体調管理もできねぇのかって事。」
「失礼ですね、自分の体調ぐらい分かった上でこの選択をしてます。現にこうして意識は保ってますけど。」
「じゃあよっぽどの変人なのか。とりあえず病院行くぞ。」
有無を言わさず半ば無理やり肩を担がれ車に押し込まれた。病院で治療を受けてシャワーを浴びて服を着替えたら綺麗さっぱり、見た目はいつものぐち逸に戻った。
「で、なんであんな所に転がってたんだよ。記憶喪失で家の場所忘れたとか?」
「さっきから失礼ですね、カニさんには関係無いですから。」
「いやいやあの状態でブッ倒れてたら気になるでしょ。あ、ちょい電話…「はいはーい?うん起きてる…あー、ごめん今人といて、うんぐち逸と…えっ知らんの!?会った事無いん?……よしじゃあ俺ん家集合で!はいよー。」という訳だから俺ん家行くぞ。」
「誰ですか?私良いって言ってないんですけど。」
「まぁまぁ細かい事は気にすんなって、どうせ暇ならちょい付き合ってよ。」
そんな気分じゃ無いのに勝手に話を進められ振り回される。案内されて家に入ると既にキツネの被り物をした人物が座っていた。
「エギはや、待った?」
「いや俺も今さっき来たとこ。この人がぐち逸さんか、初めまして狼恋エギです。」
「空架ぐち逸です、どうも。」
「ぐち逸は個人医で無愛想だけどたぶんそんなに悪いヤツじゃ無い。エギは俺と同じ警察官で銃めっちゃ上手いから現場で鉢合わせたら諦めろ。」
飲み物を受け取り早速話し始めると2人のノリやマシンガントークに圧倒されっぱなしのぐち逸は何故この場に自分が呼ばれたんだ、場違いだろと居心地が悪くなってきた。
「そういやぐち逸さんと力二は仲良いの?」
「いや別に、会ったの2回目だし。」
「じゃなんで家呼んだ?」
「あーそれは…ちょっと色々あって、な。」
「まぁこれは認めます、助けて貰いました。」
「ふーん、助けた…?」
「なに妬いてる?心配しなくてもそんなんじゃねーよ。」
成瀬がエギの頭をワシャワシャ撫でるとエギは嬉しそうにはにかんでいる。見てるとさっきからボディタッチが多かったり 肩を組んだりと、2人は同僚や友人では片付けられない程距離が近い。
「あの、一つ聞いても良いですか?」
「ん?なにー?」
「失礼だったらすいません、2人はどういう関係なんですか?」
「あれ言ってなかったっけ?俺達付き合ってんの、カレカノならぬカレカレな。」
「そう!なんですか……付き合ってる…」
「そんな驚かなくても今は多様性の時代よ?」
「あ、いやそういう意図は一切ありません。すいません。ただその…」
「その?」
「…いや、なんでもないです。」
思わぬ場面で元気と勇気を貰ったぐち逸はもしかしたらまだ諦めなくて良いのかも、僅かでもまだ希望を持ってて良いのかもと少しだけ心が軽くなった。