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9 - 第九章 生きていくこと、その意味。

2025年08月03日

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―とある病院の一室。

「実は、お伝えしたいことがあって…」

「何でしょう?」

「…その…ですね…少し現実的ではないのですが…私、ハヤテ君とアキラさんに会ったんです。寝ている間に」

「…寝ている間に?それはどういう…?」

「それが私もよく分かっていないんですが、生と死の間のような世界で会うことができて…」

「うん」

「二人と沢山話をして、そうしたらアキラさんも私を許してくださったんです。私がこっちにいられるのは、アキラさんのおかげなんです。それで……その…つまり何が言いたいのかというと、ハヤテ君は…息子さんは、必ず帰ってきます!アキラさんがついてるから」

「……そうですか」

彼女はそう言って微笑んだ。

私の罪は消えることはない。でも私は、その笑顔に救われた。この家族のおかげで、生きてて良いって思えた。

だから私は信じてる。必ず、あの子は目を開けるって。


✳︎ ✳︎ ✳︎


―とある小学校の教室。

賑やかな雰囲気の漂う校内にチャイムが鳴り響き、眼鏡をかけた男性教師が今日もドアを開ける。

「はーい皆、朝の会始めるぞ〜」

一人の男子児童が口を開く。

「先生!今日もハヤテ君休みですか?」

「だから、ハヤテさんは少し病気にかかっていて、入院しているんだ。学校に来るまではもう少しかかるかもしれないな」

「へえ〜」

「もし帰ってきたら、皆で出迎えてやろうな。はい、じゃあ出欠とりまーす」


―僕は頭がいい。だからこそ分かる。先生は嘘をついている。僕の問いかけに対して明らかに何かを隠している。

今まで僕達は彼に過度ないじめを繰り返してきた。どこをとっても酷いことばかり、だ。

クラスの皆がそれに参加する中、僕は止めようにも止められず、圧力に流されてしまった。

あの日、僕が皆を止めていれば、今日も彼は登校していたのだろうか…


そんな思考が、とある男子児童の頭に流れ続け、いつのまにか授業は終わっていた。

昼休み、男子児童はクラスの全員に向かって口を開く。

その顔は、これまでの迷いを含んだ表情とは全く違ったものだった。


「あのさ皆、ハヤテ君にさ…謝ろうよ!」


✳︎ ✳︎ ✳︎


そして数日後、僕は目を覚ました。あの壁の向こうに色々なものを置いて。

母さんは病院からの連絡の直後、とてつもない速さで到着し、僕のベッドに顔をうずめて泣きじゃくった。それを見ていると、自然に僕の目にも涙の粒が溢れてきた。

当時の僕は、あの世界での出来事をあまり憶えておらず、霧に包まれたような記憶が見えては消えた。

医者によると、昏睡状態の時の僕は、呼吸・心拍に異常は見られなかったものの、大脳に損傷があり、助かるかわからない状況だったらしい。

しかし目を覚まし、再び検査をすると、不思議と脳の損傷は跡形もなく消えていた。

今思えば、僕が生きていくために足りないピースを父さんが加えてくれたのかもしれない。

それから3ヶ月間リハビリ、カウンセリング、検査を繰り返し、ようやく復帰を果たした。


その後、ナツミさんとも話した。今生きている人間で唯一、同じ体験をした人物だ。

記憶が曖昧だった僕も、ナツミさんの話を聞いて、鮮明に思い出すことができた。

現世とあの世の境目。二つの壁によって隔てられ、緑豊かな草原や丘が広がっていた。

死に直面したことを認られない残留人が行く世界。

あの世界は一体なんだったのか、僕達は知る由もない。

まあ真実なんて別にどうでもよいのだが…


学校に復帰する前の僕は、「また苦しい日々が続くのか」と不安しかなかったが、予想していなかったことが起きた。

いじめっ子達は僕に謝罪をしたのだ。そして、僕と沢山話をしてくれた。

その中で、僕達はお互いに理解し合い、認め合い、時間をかけて友達になれた。

どうやらいじめの主犯格である子には、家庭環境にわだかまりがあったらしい。だからっていじめを許す気はないが、理由があったことが分かった。

きっとそうやって認め合えば、人間はもっといい生き物になれる。どんな過去だって乗り越えられる。だから、もう大丈夫だ。


こうして、僕は『正解』と呼べるものを見つけた……気がする。

父さんにも見せてあげたかったな。いや、父さんのことだから、きっと見てるでしょ?

父さん。僕、16歳になりました。おかげさまで、今を生きられてます。僕が生きる意味、ちゃんと見つけていくから。

僕は仏壇に向かって手を合わせ、心の中で話しかける。何故かその時だけは、父さんと繋がれる気がした。



数日後。

下校してきて、家のドアの前に立つ。

夕日の光が差し込む中、ドアハンドルを握り、ドアを開けた。

「ただいまー」

「おかえりハヤテ!」

母は今日も元気だなぁ。僕は学校で疲れきってついてけないや。


僕は2階にある自分の部屋に入り、吸い込まれるようにベッドに寝転がった。


いつもふとした瞬間に、あの世界での出来事が浮かんでしまう。

もっと自分にできることはなかったのだろうか。結局、僕は父さんに終始迷惑をかけてばかりだった気がする。

そんな思考が頭の中にぐるぐる巡って、行き場を失っている。


すると、母が部屋のドアをノックし、いきなり入ってきて言った。

「ハヤテ。これ、応募してみたら?」

母が持っているチラシに書いてあったのは、


「高校生小説コンクール開催決定! ジャンルは不問!あなたの頭の中にある物語を、今こそ作品に昇華させよう!」

というものだった。


「ハヤテ、小説家になるのが夢だったでしょ?こういうのピッタリじゃん!」

「ふーん……」


…もしかしたらこれはチャンスかもしれない。今自分の中にある「もや」を、物語という形にすれば消化できるのではないか。

悩みは言葉にすると楽になるというし。うーん…やってみるか。



僕は短編小説を書いてみることにした。僕が実際にあっちで体験したことをもとに、物語にしてみる。

そうすることで、自分の中にあるものを吐き出すのだ。


タイトルは、「向こう側」「〜を超えて」や、「〜の終わり」という意味を持つ英単語。


……「OVER」、にした。




OVER     第九章 『生きていくこと、その意味。』 完


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次回、最終話です。よろしくお願いします🙇

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