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第11話 必ず、君を。
「もう、無理なんです」
「おんりー君‼︎」
雨で、体が酷く冷たい。
息が、荒くて、苦しい。
空から、雷鳴が聞こえる。
空は灰色で、異様なまでに暗い。
「おんりー君、戻ろう‼︎このままじゃ…君の身体が限界を迎える‼︎」
「もう…もうっ…いいんですよ…‼︎」
反射的に、先生を突き飛ばしてしまう。
先生は、ちゃんとした大人だから。
突き飛ばしても、びくともしない。
「…このまま…終わるんですよ…」
涙が、雨と混ざって。
落ちていく。
「僕は…君を見捨てられない‼︎」
先生の瞳は、僕の瞳を離さない。
「君と出会ったあの日…僕は君に対して、ただの医者として接しただけだった」
頬に、全身に、大粒の雨が打ちつける。
先生の眼鏡は、レンズに水滴がついて、使い物にならなくなっていた。
先生は、眼鏡を上げて、僕に言い放った。
「でも今は違う…僕は…君を救える医者になりたい」
「君と見たあの綺麗な海を…君が大切な人と共に見られるようにしたいんだ‼︎」
先生は。
先生は、僕の事を…
僕はその場に座り込んで、泣き叫んだ。
君のバイタルは、あの後は安定していたよ。
君の心は僕にはわからないし、君の悩みも、僕にはわからないんだ。
でも、君に伝えたいんだ。
僕は君の夢を叶える為に治療を、必ず成功させるって。
患者の情報を書き留めたノートを開く。
彼のページには、彼が珍しく、携帯電話で写真を撮らせてくれた時の写真が貼ってある。
「…おんりー君、君を必ず、助けてみせるからね」
そう言って、パタンとノートを閉じ、学会の研究会場に足を踏み入れた。
次回 最終回 「病室の少年へ。」