テラーノベル
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最終話 「病室の少年へ。」
穏やかな景色。
暖かな日差し。
空一面の、青空。
「お兄ちゃーん‼︎こっち、早く!」
「もう、わかったってば〜」
草木は萌え、小鳥は歌を歌っている。
まるで、彼を祝福しているかのように。
成長し、仲を深めた、素敵な兄弟。
大きなキャリーを兄の代わりに引いた、穏やかな目線を送る両親。
僕は、その微笑ましい光景を、見つめている。
あれから、4年の月日がたった。
彼は今年で20歳になる。
僕達が主導となって行われた研究によって、彼のような人々の身体を平均的な数値の人間の身体に寄せる薬が開発された。
彼は治験に参加し、長らく病に蝕まれた身体を、ごく普通な身体へと変えていった。
彼は治療の間に通信制の高校を卒業し、猛勉強の結果、4月からは、少し遅れて大学生になることが決まった。
「先生、写真撮ってくださいよぉ」
「もちろん!」
慣れない操作で、彼の新しいスマートフォンを操作し、家族の写真を撮る。
真ん中で、彼は、彼の弟と共に、笑みを浮かべている。
「お兄ちゃんの身体が治ってよかった…僕も嬉しい!」
「おらふくんも、よく病気治したよね。お兄ちゃん、退院は先越されちゃったもん」
8歳になり、身体も、精神も成長しつつある弟の頭を撫でている彼。
「…先生」
おんりー君は、僕の手を取って、握手をしてこう言ったんだ。
「…6年間、本当にありがとうございました。」
そして、リュックサックから封筒を取り出し、僕に渡してくれた。
「この手紙、後で読んでおいてください」
「…うん…ありがとう…大切にするよ…」
「…ちょっと先生、何泣いてるんですか」
「おんりー君…退院、おめでとう。」
僕は、新しい生活を始める。
人生の大半を過ごしてきた、この病院を離れて。
僕のこれまでの人生を振り返ると、涙が出そうになる。
忘れちゃいけない、忘れてはいけない。
「先生…一つだけ、お願いがあるんです」
「また、2人で海を見に行きましょうよ」
「…そうだね…一緒に…見に行こう…」
先生は、涙をハンカチで拭きながら、そう返してくれた。
病院の庭に植えられた桜は、満開だ。
桜の花びらを拾い、ハンカチに挟む。
そして、着慣れないワイシャツの胸ポケットにハンカチを戻した。
そして、もう一度自分がいた病室を見つめる。
色々な思い出が蘇って。
最後に、先生に、誓ったんだ。
「先生…必ず…会いにきますから」
彼が退院し、この病院から離れた。
その事実を考えたくなくて、彼の部屋だった、この病室に入った。
ゆっくりとベットに腰を下ろし、手紙を読むことにする。
封筒を開けると、僕に宛てて、綺麗な字で書かれた手紙が出てくる。
涙を流しながら、僕は手紙の1文字1文字を、噛み締めた。
いつもの病院の朝礼。
今日は、珍しく院長が顔を出していた。
どうしたんだろう。疑問に思う。
「えーね、皆さんに、今日から研修医さんが入ってくる事をお知らせします」
「はい、それじゃ、こっちにおいで」
院長は、会議室の外に向かってそう言った。
ノックがされて、部屋に入ってきた。
横を向いていて、顔がよく見えない。
その子は、身長が低くて、髪の毛が跳ねていて、眼鏡をしている。
その子が、こっちを向いた。
僕は、息を呑んだ。声が出なかった。
君は、深くお辞儀をして、顔を上げた。
「…今日から研修医として働かせていただきます、おんりーです。よろしくお願いします。」
そう言い終わると、君に 拍手がされた。
僕は、興奮冷めやらぬ思いで朝礼をやり過ごし、スタッフステーションに戻った。
「先生、約束、きちんと守ったでしょ?」
「…そうだね、流石、おんりー君…いや、おんりー!」
君は、にっこりとして、
「よろしくお願いします、ドズル先輩‼︎」
と言った。
病室の少年へ。
君はもう少年ではないし、入院もしていない。
じゃあこの手紙は誰に宛てたのか。
これは、君の心の中の、昔の君に宛てている。
是非とも、少年だったあの頃を思い出して、
この、病室に囚われていた頃の君の人生を綴った物語を読んで欲しい。
完結
設定まとめは明日あげます
ありがとうございました。
コメント
12件
もう涙が止まりません 最高です! 完結おめでとうございます お疲れ様です また一から読ま直します! 久しぶりにテラー開いたら完結しててびっくりしました 最高の話をありがとうございます!
バスの中なのにめっちゃ泣きそう どうしてくれるんですかw バス停乗り過ごしたらどうしよう...w
完結おめでとうございます…! ずっとずっと大好きな作品で、最後まで感動させられっぱなしでした…w 素敵な小説を届けてくださり、ありがとうございます‼︎