テラーノベル
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翌朝、いつも通り羽衣子は園児たちを迎えていた。
やがて昴に手を引かれた希海が姿を見せる。
「せんせ!」
「おはようございます」
「希海くんおはよう、京極さんもおはようございます」
挨拶を交わし、希海はいつものように元気よく羽衣子の元へ駆け寄った。
希海の頭を軽く撫でながら、羽衣子は昴へと視線を向け、
「……あの、少しよろしいですか?」
「ええ、どうかしましたか?」
「実は今週の金曜日なんですが……仕事終わりに予定が入ったので、その、金曜日は送っていただかなくて大丈夫です」
「……予定、ですか」
「はい、実は兄から飲みに誘われたので」
羽衣子のその言葉を聞いた昴は微かに眉根を寄せるもそれを感じさせず、
「お兄さんとですか。それは楽しみでしょう。分かりました」
それ以上は何も触れなかった。
「ありがとうございます」
羽衣子も軽く頭を下げ、そのやり取りの後、昴は希海へと視線を落とした。
「じゃあな、希海」
「うん、バイバイ」
希海の元気な返事を受けた昴は踵を返すと駐車場へと向かって車へと戻り、運転席に乗り込んだ。
そしてドアを閉めると同時に無駄のない動きでワイヤレスイヤホンを耳に装着すると、エンジンをかけて車を発進させながら通話を開始した。
数秒のコール音の後、相手が出る。
「……先日の件だが、どうなってる?」
『はい。吾妻羽衣子については……特に目立った情報はありませんでした』
「……そうか」
相手の返答に淡々と受け流す昴だったが、次の言葉で空気が変わった。
『ですが――彼女の兄、吾妻 想汰について、いくつか気になる情報がありまして』
「……続けろ」
『はい――』
イヤホン越しに流れ込んでくる内容を聞くにつれ、昴の表情は次第に険しさを増していき、ハンドルを握る手に力がこもっていった。
その日、羽衣子は園での業務をこなしながらも、どこか落ち着かない気持ちを抱えていた。
(……昨日の、あれ……)
自宅の前で感じた、あの視線。
気のせいだと思おうとしても、土曜日の出来事といい、外へ出るとどうしても考えてしまう。
「せんせー、これできた!」
「……あ、本当だ、すごいね、上手だね」
園児に呼ばれて我に返り笑顔を向けるものの、ふとした瞬間に周囲へ目を向けてしまう自分がいた。
同僚たちも引き続き警戒はしているが、園内は今日も変わらず平穏だった。
そして夜、仕事を終えて帰り支度を整えた羽衣子は園の外へ出る。
(……広瀬さんに昨日のこと、相談してみようかな……)
そう思いながら視線を向けた先に車が停まっていたので近付いて行くと――
「……え……?」
その運転席の窓から顔を覗かせたのは昴だった。
「お疲れさまです」
「……あの、どうして……?」
戸惑いを隠せないまま車に乗り込んだ羽衣子が問いかけると、昴は淡々と答えていく。
「乙哉は少し用がありまして、今日は私が来ました」
「そ、そうなんですか……」
予想外の展開に羽衣子は一瞬言葉を失う。
「……あの、希海くんは?」
「ああ、希海は少々知り合いに預かってもらっています」
さらりと言われたその言葉に、羽衣子は更に驚いた表情を見せた。
「そこまでして迎えに来ていただいて……すみません」
思わず申し訳なさそうに羽衣子が頭を下げると昴は軽く首を振る。
「いえ。それより――」
そして一瞬だけ言葉を区切り羽衣子を真っ直ぐに見た。
「少し、吾妻先生に聞きたいことがあります」
「……?」
羽衣子はきょとんとした表情で首を傾げる中、
「何でしょうか?」
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昴は一拍置いてから静かに口を開いた。
「……お兄さんのことです」
「……え……?」
予想していなかった話題に羽衣子の目が僅かに見開かれる。
「お兄さんは、今どのようなお仕事を?」
「えっと……知り合いの会社で働いていると聞きました」
「その会社の場所や……現在の住まいは?」
「……それは……」
昴の質問に羽衣子は言葉を詰まらせる。
羽衣子自身知りたいことは沢山あったものの、想汰とは久しぶりの再会だったこともあり、そこまで踏み込んだ話はしていなかった。
「……実は、そこまで詳しくは……まだ聞けてなくて……」
そんな羽衣子の答えを聞いた昴はそれ以上聞くことを止めた。
「……そうですか」
訪れた沈黙の中、羽衣子は少しだけ困惑したように口を開いた。
「……あの、どうして……そんなことを……?」
それは純粋な疑問だった。
何故昴が、そこまで想汰のことを気にするのか。
羽衣子のその疑問に昴は、
「……すみません。いきなりでお気を悪くされましたよね。先日の見知らぬ男の件もありましたから、吾妻先生の周りの人間については、こちらとしても少し知っておきたかったんです。お兄さんとは久しぶりに会うと仰っておられましたから」
「……そう、だったんですね。すみません、こちらこそ、心配していただいて」
「いえ。それじゃあ、帰りましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
こうしてこの件に関しての会話はここで終わり、ぎこちなさが残るままにアパートへ向かって車は走っていく。
(……京極さんの言い分は分からないでも無いけど……お兄ちゃんのことを聞いてくるなんて……お兄ちゃんのこと、疑ってるんだ……確かに、私も少しそういう節はあったけど……)
昴が心配から先程の質問をしたことは羽衣子も頭では理解しているものの、やはり唯一の肉親が疑われるのは少し複雑な心境だったようで、どこかモヤモヤした思いが胸に燻っていき、それから暫くして羽衣子のアパートへと到着した。
コメント
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おお、第12話!ここにきて昴さんが羽衣子の兄・想汰を調べてるって、ますます「何かある」感が強まったね。羽衣子が「お兄ちゃん疑われてるのかな」って複雑な気持ちになってるところ、すごくリアルだった。それにしても昴さんが希海を預けてまで迎えに来るって、どんだけ警戒してんの……心配性なのか、それとももっと深い事情があるのか。続きが気になりすぎる🔥