『あなた、まだ死んでなかったんですね……』
薄暗い部屋の中でモニターだけが青白く輝いていた。そこに映し出されている光景を見た少女――有栖川七那は心底呆れた様子で呟く。
『まったくもう! 早く死んだほうが世の為人の為になりますよ!』
憤慨しながらキーボードを叩き、七那はとあるプログラムを走らせた。画面上にいくつものウィンドウが現れては消えていく。
『さっさと死んじゃえばいいのに! ホント迷惑極まりないですね!』
七那が怒りをぶつけるようにキーを打つたびに、画面上の映像が激しく乱れた。
『あの人がいなくなれば、この虫憑きの世界だって平和になるはずなのに! 邪魔ばっかりして、いったいなにがしたいんだか!』
次々と現れるウインドウには、それぞれ別の人物が映っている。どれも見覚えのある顔だった。
俺と、俺の妹――美桜の顔だ。
「……おいおい」
俺は呟いた。声が掠れている。喉の奥がきゅっと締まって息苦しかった。まるで身体中の水分が全て蒸発してしまったかのような感覚に陥る。
視界が歪む。景色全体がぼやけて見える。自分が泣いていることに気付いた時にはもう遅かった。涙腺が壊れてしまったかのように目からは大粒の雫が流れ続ける。頬を流れる生温い液体を感じながら、ただ呆然と立ち尽くしているしかなかった。
「なんでだよ……」
俺はその場に崩れ落ちた。両膝を突いて床に手をつく。
ふと視線を落とすと、そこには血溜まりができていた。赤黒く変色していて、鉄臭さがある。間違いなく血液だ。しかもかなり量が多い。おそらく致死量を超えているだろう。
俺は恐る恐る、目を開いた。
視界いっぱいに広がるのは見慣れぬ天井……いや、違う!これは俺の部屋の天井じゃないか!? 慌てて起き上がるとそこは紛れもなく、俺の家であるアパートの一室であった。
「夢オチかよ!」
そりゃそうだよね?あんなこと現実じゃあり得ないもんね。
「お兄ちゃんうるさいー!!」
隣の部屋の妹が壁ドンしながら怒鳴り込んできた。妹よすまん。だが仕方ないんだ許してくれ。
さて、今日は高校二年生の始業式がある日だ。遅刻しないよう早く支度しないと。
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