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ウルミラのお披露目が終わったら、今度はフレミーの番だ。
というか、彼女は最初から事象を発生させていた。私も含め、全員気付かなかっただけである。また、彼女も事前に申告していた通り知っていた”意味を持つ形”の数が少なかったためか、使用する図形は一つだけだった。
彼女の起こした事象は、周辺の状況を正確に把握する『広域探知《ウィディアサーチェクション》』。
私がエネルギーを抑えずにいた頃、自身のエネルギーの範囲内を感知していたあの感覚と効果は似ているが、その性能は私の感知よりもはるかに高かった。
私の感知が大体把握できる程度の性能に対して、フレミーの”広域感知”は範囲も精度も尋常じゃなかったのだ。
外部から視認できる事象ではないため、私も図形を教えてもらって使用してみたのだが、その効果範囲は私のエネルギーによる感知の3倍はあり、効果が及んだ領域全ての詳細が事細かに理解できたのだ。
それこそ、樹木の葉一枚一枚、地面に転がる小石の一粒一粒まで、明確にだ。これは、詳細が分かりすぎて情報処理能力が高くないとまともに扱えないんじゃないだろうか?
フレミーにそのことを聞いてみたのだが、彼女が『広域探知』を使ってもそこまでの範囲と精度にはならないらしい。となると、こんな馬鹿げた性能になったのは私のエネルギーが原因か。
私のエネルギーは量、密度共に規格外だ。更に森の住民達のエネルギー色が二、三色なのに対して私は七色もある。
色の数が一つ増えるだけで性能が跳ね上がることは昨日の時点で確認を取っているので、三色のフレミーに対して七色の私が同じ図形を使用したら、こうなってしまうのも当然なのだろう。
それはそれとして、フレミーの場合だ。彼女が”広域探知”を行った場合、範囲は私のエネルギーによる感知より若干広く、精度も上回るようだ。
私では感知できなかった隠れた虫を見つけられているのも、『広域探知』の効果によるものだったというわけだ。
一方的に対象を認識し、相手に知られることなく糸による罠を張り巡らせ、時には奇襲さえもする。
それがフレミーのスタイルだ。フレミーの糸は極めて丈夫で、ホーディですら絡まったら抜け出すのは至難の業だという。森の住民がフレミーを恐れるのも無理は無いだろう。
最後に事象を見せてくれたのはホーディだ。
森の住民達の中で最も強いと言われているだけあって、身体能力やエネルギーだけでなく、”意味を持った形”や図形の知識も豊富だった。
一つ、黒い炎を生成する『黒炎』。
炎の温度はかなり高く、その辺の石などは容易に溶かしてしまった。それにこの炎、何とも不思議なことに引力を持っている。これを腕に纏って振るえば、回避困難な爪撃が可能だろう。
一つ、先述の『黒炎』の応用、黒炎を弾丸として射出する『黒炎弾』。
明確な遠距離攻撃手段だ。こちらは少しの調整でエネルギーを注ぎ続ける限り、連続で『黒炎』を放出し続ける『黒炎波』への派生も可能だ。
『黒炎』である以上引力を持っているため、弾も波も、どちらも凶悪な性能なのは言うまでもないだろう。
一つ、黒い電気を発生させる『黒雷』。
こちらの事象も非常に分かりづらかったが、引力が発生していた。そもそも『黒雷』に関しては彼の種族特性なのだろう。
彼の角にエネルギーが集中していくと、それだけで黒い放電現象が起きていた。感覚的に”意味を持った形”や図形を理解できても納得がいく。
一つ、当然のように『黒雷』を応用した、対象への指向性を持った瞬間的な放電、『黒雷閃』。こちらも『黒炎波』同様、図形を調節して放電し続ける『黒雷波』へと派生する。
『黒炎』もそうだが、エネルギー体が引力を持つというのは何とも不思議な現象だ。いや、引力とは違うな。正確には吸い寄せる力とでも言えばいいのか。とにかく、重力が関係しているわけではないようだ。
驚くべきことに、彼が使用できる図形はまだある。ラビックも使用していた『強化《ブースト》』、『不懐』、『与硬《ギバード》』の3つの事象も彼は使用できたのだ。
ちなみに、ホーディに『黒炎』や『黒雷』を初めて私と対峙した際に使わなかった理由を聞いてみた。
〈主を覆っている力があまりにも強力でな。使用したところで全く効果など無かっただろう〉
とのことだった。
なるほど。特殊な効果を持った事象を発生させたとしても、エネルギー量や密度に差がありすぎると、相手に対して効果を発揮しなくなってしまうのか。
ちなみに、以前私に前足を振り下ろした際は、しっかりと『強化』、『不懐』、『与硬』の3つの事象を使用していたそうだ。『強化』と『不懐』は分かるが、『与硬』まで使用していたとは。体毛も肉球も柔らかさを感じていたから不思議に思っていたら、私に掴まれた時点ですべての事象の効果が打ち消されていたのだそうだ。
それというのも、肉体全体に効果が及ぶ『強化』や『不懐』と違い、『与硬』は対象の表面に効果を及ぼすものだからだということだ。私が掴んだ際に『与硬』の効果が私のエネルギーにあてられて壊れてしまったということか。そういった意味でも効果を発揮しないのか。酷い話だな。
ただ、効果が発揮しないほど、エネルギーに差が生じることなど滅多にないそうだ。
話を戻して、ホーディについてだ。最初に出会った頃からホーディには可愛さしか感じなかったが、他の者達から見た場合は、まるで違う。
右に出る者はいないほどのエネルギー量と密度を持ち、もともと高い身体能力を図形の事象によって更に強化できるのだ。おまけに2種類の遠距離攻撃もすらも可能。その上、大抵の攻撃を防ぎきる頑丈さと高い再生能力まで備えている。
…なんていうか、ホーディだけ強すぎやしないか?彼が森で最も強いと言われているのが、良く分かる。
そんなホーディでもあの果実を食べることができなかったとなると、あの果実の外果皮はどんな硬さだというのだろう。そして、それをほとんど抵抗なく丸かじりできてしまう私は…。
…化け物どころの話ではないな。怖くて当然か。むしろフレミーは、良く私を怖がらずに傍まで来てくれたな。今更ながらに本当に感謝しかない。私にとって掛け替えの無い存在だ。
そんなわけで、皆の知っている”意味を持った形”や使える図形、それによって生じる事象の確認もできた。
皆、新しい事に挑戦したいようで、距離を取って”意味を持った形”を思うままに組み立て始めている。なかなかに楽しそうな光景だ。ちょっと羨ましい。
私はというと、皆が距離を取り始めた時点で、自分の胸の前に両手を揃え、そこにエネルギーを集めている。そして自分のエネルギーへ意識を集中させて制御をし続けている。”意味を持った形”は組み立てていないし、そもそも形を作ってすらいない。
当然だろう。
ただでさえ、どの事象も強力な効果を持つものばかりなのだ。私が皆と同じ感覚で図形を使用した場合、森にどれだけの被害が発生するか分かったものでは無いのだ。
正直なところ、形を組み立てて図形を作るのが楽しそうで仕方が無いのだ。
私も不自由なく試行錯誤を重ね、色々な組み合わせを試してみたい。その為には、性能を馬鹿みたいに高めてしまう主な原因であるエネルギーの色を何とかしなければならない。
エネルギーの密度でも威力は変わってくるから、念のため一色のエネルギーだけを使えるようにするべきだ。
そんなわけで、私はみんなが楽しそうに図形を組み立てている中、一人大人しく自分のエネルギーと格闘していたのである。
はっきり言って、物凄く難しい。一つ一つの色が均等に混じり合わさり、一色のエネルギー単体を認識することすらかなり時間をかけてしまう。
その上、エネルギーを分別して一色だけを使用するとした場合、とんでもない労力になりそうだ。皆の楽しげな声が聞こえてくる気がする。羨ましい。
日が沈み、辺りは既に真っ暗だ。結局のところ、エネルギーの分別はまるで出来なかった。正直悔しい。
家に帰ってきた皆は、心なしか表情が楽しげだ。既にいくつか新しい図形を作ることができたのかもしれない。しつこいようだが、本当に羨ましい。
だが、私は諦めない。自分のエネルギーを自由自在に操れるようになって、私も図形を組み立てるんだ!
そのためにも、今日はもう寝よう。
モフモフに包まれ、このもやもやした気持ちを取り払うのだ!