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サーチライトの暴力的なまでの白光が、俺の構えたドスの刃に反射し、網膜を刺す。
視界の端では、大門たちが機動隊の分厚い盾の壁に押し潰され
一人、また一人と冷たいアスファルトに組み伏せられていくのが見えた。
怒号と肉がぶつかる鈍い音が響くが、今の俺にそれを憐れむ余裕など微塵もない。
「射撃用意!ターゲットは黒嵜和貴、生死は問わん!」
指揮官の冷徹な号令が狭い路地に反響する。
カチリ、という無数の安全装置が外れる音が、死のカウントダウンのように聞こえた。
志摩が俺の前に半歩踏み出し、拳銃を構え直す。
その背中は、かつてないほど緊張に強張っていた。
「おい黒嵜、正気か。この数に正面から突っ込むなんてただの自殺行為だぞ」
「……自殺?違うな、俺はもうとっくに死んでるんだよ。拓海が死んだあの朝にな」
俺は志摩の制止を力ずくで振り切り、機動隊の列に向かって地を這うような低さで疾走した。
「撃てッ!」
叫びと共に、火を噴く銃口。
一発の銃弾が俺の左肩を掠め、焼けるような熱い衝撃が駆け抜ける。
肉が弾ける感覚。
だが、その痛みはむしろ、濁りきっていた俺の意識を極限まで鮮明に研ぎ澄ませた。
盾の僅かな隙間、踏み出す靴の先、ヘルメット越しに見える視線の動き。
極道として泥水を啜り
数多の修羅場を潜り抜けてきた俺の野性の直感が、国家の操り人形たちの「機械的な隙」を正確に捉える。
「う、うわあああッ!」
最前列の隊員が、目前に迫った返り血を浴びた鬼の形相に、一瞬だけ腰を引いた。
その瞬間を、俺は見逃さない。
俺は盾の縁に指をかけ、全身のバネを使って力任せに引き剥がした。
バランスを崩した隊員の懐に深く飛び込み、ドスの柄で顎の先端を垂直に突き上げる。
脳を揺さぶる確かな衝撃。
隣の隊員が反射的に警棒を振り下ろすが
俺はその腕を掴んで捻り上げ、逆に奴の体を肉の盾にして背後に控える射手たちの射線を強引に遮った。
「どうした、撃てねえのか」
俺は口端を吊り上げ、歪んだ笑みを浮かべたまま、さらに敵陣の奥へと踏み込んだ。
一方、志摩もただ傍観していたわけではなかった。
奴は混乱に乗じて機動隊の足元にある古い消火栓のバルブを銃撃し、高圧の水を噴出させた。
激しい水飛沫がサーチライトの光を乱反射させ、路地裏は水と煙が渦巻く混沌の底へと沈んでいく。
「今だ、黒嵜!こっちだ、排水路に飛び込め!」
志摩が足元を指差す。
古びたマンホールの蓋が、溢れ出した水圧によってガタガタと浮き上がっていた。
俺は拓海が遺した「真実」の封筒を、志摩が差し出した防水のジップロックに叩き込んだ。
俺たちは、暗い闇の底――
地下へと続く巨大な口へ、迷うことなく身を投げた。
頭上から聞こえる無数の銃声と、獲物を逃した犬どもの罵声が、落下するにつれて徐々に遠ざかっていく。
漂うのは、鼻を突く下水の臭いと、冷え切った湿気。
だが、今の俺にはこの暗くて汚い地下道こそが、唯一の聖域に見えた。
俺は今、名実ともに社会から抹殺された人間失格の紛い物へと成り下がった。
だが、それでいい。
ここから先は、光を奪われた紛い物による、平穏を享受する生ける者たちへの報復劇だ。
冷たい地下水が、肩の傷口を刺すように冷やしていく。
俺は闇の中で、掌に馴染んだドスの感触だけを唯一の道標に、漆黒の深淵へと歩き出した。