テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「普通に海を描く時さ、こういう砂浜だとか海だとか、もうちょっとこう……明るい色にするでしょ。特にインテリアにするのって、日本海の荒海かグアムの珊瑚礁かって言われたら、ほとんどの人がおそらくグアムを選ぶ。行ったことなくてもね。でもこれは違うでしょ。この漁師小屋なんて見てみな、荒れ果てて倒壊寸前って感じだ」
「言われてみれば……変、ですよね。まるでリアルであることが一番重要だとでもいうような」
「うんうん。これが超有名な彫刻家がさ、自分の感情のままを表現したジオラマとかならわかるんだ。でもそんなもの、そう簡単にフリマに出回るわけがない」
ああ、と合点がいった。そこで元の疑問に戻ってくるのだ。このジオラマが作られた本来の狙いは何か。
「さかえ義兄さんはそれが、『えびすさま』と関係するのでは、と思っているのですね」
「そう。やっぱり俺の自慢の弟は可愛い上に頭良くて、お兄ちゃん助かっちゃうなぁ!」
僕は表情を消してジオラマを睨むことにした。可愛いだのなんだの、言われても今更嬉しい男いるものか。
さかえ義兄さんは苦笑し、それから続けた。
「実際、流木ならともかく、流れ着いた死体を神に見立てて祀る行為自体は、海沿いの集落の習俗としてないわけじゃない。砂浜、漁師小屋、海……このジオラマは、そんな『えびすさま』が流れ着く条件を満たしていると言える。リアルさは『見立て』――そう仮定すれば、辻褄が合う」
「つまり、……どういうことですか」
「これは、擬似的に『えびすさま』をお招きするための装置……なんじゃないかなぁと、俺は思う」
ぐ、と海の匂いが強くなった気がして、僕は思わず鼻を押さえた。そんな僕を見守りながら、さかえ義兄さんは静かに続ける。
「その場合、壊すのは悪手だ。何せ招いているのは色々要素があるとはいえ、神様であることに変わりはないからね。神霊坐す場所を破壊しては障りが大きい。できるだけ早くお帰りいただくのが一番いいんだけど」
「――それは」
無理じゃないでしょうか。
言いかけた言葉を、僕は言えなかった。
でもきっと、さかえ義兄さんも気づいていただろう。
『えびすさま』は流れ着くもの。
それに「お帰りいただく」ことの難しさを。
コメント
1件
方舟さん、第14話読ませていただきました! 「えびすさまをお招きするための装置」──このジオラマにそんな意図が隠されていたんですね。リアルすぎる表現は「見立て」のためだったのか……合点がいきました。そして「帰っていただく」のが難しい、というラストの空気感がとても怖くてゾッとしました。 さかえ義兄さんの飄々とした語り口と、それに照れつつも受け答えする主人公くんの距離感も素敵です。続きが気になります!