テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
青い夢
第3話「見つけないで」
翌朝。
いつもなら、騒がしいはずの教室。
けれど――
今日は誰も、笑っていなかった。
凛が教室に入った瞬間。
すでに何人かが席についていた。
蜂楽。
凪。
玲王。
千切。
雪宮。
氷織。
烏。
乙夜。
士道。
そして、冴。
全員が――
妙に静かだった。
凛は足を止める。
「……お前ら」
誰も返事をしない。
「昨日の夢」
凛が言った。
その瞬間。
蜂楽が顔を上げた。
「……見た」
「俺も」
凪が答える。
「……俺もや」
氷織も続ける。
「やっぱり……」
凛は目を細めた。
「全員か」
誰も否定しなかった。
しばらく沈黙が続く。
そして。
蜂楽がぽつりと言った。
「……潔、いたよね」
「いた」
千切が答える。
「でも」
千切は少しだけ眉を寄せた。
「昨日とは違った」
「……俺も思った」
玲王が言う。
「なんか……潔がずっと、何かを気にしてた」
「後ろ」
凪が突然言った。
全員が凪を見る。
「……潔、ずっと後ろ見てた」
「…………」
凛の心臓が、一瞬だけ強く跳ねた。
「……俺も見た」
凛が言う。
「潔の後ろに、何かいた」
「何か?」
乙夜が聞く。
「ああ」
凛は思い出すように目を伏せた。
「黒い影みたいな……人」
その言葉に。
士道が笑った。
「俺も見たぜ」
「マジ?」
蜂楽が振り返る。
「ああ」
士道は椅子を逆向きにして座る。
「でも、俺の夢じゃ――」
そこで。
士道の笑顔が消えた。
「……潔の後ろにいたんじゃねぇ」
「え?」
「俺の後ろにいた」
教室が凍りついた。
「…………」
士道は続ける。
「ずっと」
「俺が歩けば、歩く」
「俺が止まれば、止まる」
「でも――」
士道は、自分の腕をさする。
「一回だけ」
「俺の耳元で、声がした」
誰も口を挟まない。
「何て?」
玲王が聞いた。
士道は少し黙った。
そして。
「『お前じゃない』」
――静寂。
誰も動かなかった。
「……何それ」
蜂楽の声が小さくなる。
「知らねぇよ」
士道は笑おうとした。
けれど、笑えていなかった。
「ただ」
士道は続けた。
「その後、潔が俺を見て――」
一瞬、言葉を止める。
「『ごめん』って言った」
「…………」
***
「俺は違った」
千切が口を開く。
「俺の夢では、潔が俺に……」
千切は目を伏せる。
「『また明日』って言った」
「……俺は『待って』だった」
玲王。
「俺は『帰らないで』」
凪。
「俺は……『大丈夫』」
雪宮。
「俺は『ありがとう』」
氷織。
「俺は『もう来たらあかん』」
烏。
「俺は『ここにいて』」
乙夜。
「俺は……」
蜂楽が少し笑う。
「『また来てね』」
全員の視線が蜂楽に集まる。
「……俺だけ、普通じゃん」
蜂楽は笑った。
けれど。
凛は黙っていた。
「凛は?」
蜂楽が聞く。
凛はしばらく答えなかった。
そして。
ゆっくり口を開く。
「……俺は」
「『見つけないで』」
「…………」
全員が黙る。
その言葉だけ。
明らかに違った。
「何を?」
玲王が聞く。
凛は首を横に振る。
「分からない」
「誰を?」
「それも分からない」
「潔じゃないの?」
千切が尋ねる。
「……たぶん」
凛は答えた。
「違う」
その瞬間。
蜂楽が立ち上がった。
「じゃあ――」
教室中を見回す。
「潔は、俺たちに何か伝えようとしてるんじゃない?」
「…………」
「でも、夢を見る人によって……伝わる言葉が違う」
蜂楽は指を一本立てる。
「『また来てね』」
二本目。
「『帰らないで』」
三本目。
「『大丈夫』」
そして。
四本目。
「『見つけないで』」
蜂楽は笑っていなかった。
「……これ、全部合わせたらさ」
誰も答えない。
蜂楽が呟く。
「潔が、誰かから俺たちを守ろうとしてるみたいじゃない?」
――その瞬間。
教室の電気が。
一度だけ。
チカッ。
と消えた。
「……え?」
電気が戻る。
全員が顔を上げる。
何も変わっていない。
……はずだった。
凛だけが。
窓の外を見ていた。
「…………」
校庭。
いつもの景色。
生徒たち。
木々。
青い空。
全部、現実のもの。
なのに。
校庭の隅。
誰もいないはずの場所に――
黒い影が立っていた。
「……っ」
凛が立ち上がる。
「おい」
「?」
「……あそこ」
全員が窓を見る。
けれど。
そこには何もいない。
「何?」
蜂楽が聞く。
凛は答えなかった。
ただ。
窓ガラスに映った自分の顔を見て――
凛は気づいた。
窓の反射。
自分の後ろ。
誰もいないはずなのに。
そこに。
黒い人影が立っている。
凛が振り返る。
――誰もいない。
もう一度、窓を見る。
影も消えていた。
「…………」
凛は何も言わなかった。
その日の放課後。
誰もいなくなった教室で。
一枚の紙が、机の上に落ちていた。
誰が置いたのか。
誰のものなのか。
分からない。
そこには。
青いインクで――
たった一言。
『潔世一を探さないで』
と書かれていた。
そして。
その紙の裏側には――
誰も知らないはずの名前が、もう一つ。
『青い森の学校』
そう書かれていた。
コメント
1件
みぅ🤍🥀です 第4話、読み終わりました…… もう、ずっと鳥肌が止まらなかったです。 「見つけないで」──凛くんだけ違う言葉って、それだけで胸が締め付けられました。潔くんが誰かを守ろうとしてるのに、それぞれの夢に映る「想い」が違うのが、すごく切なくて。 最後の紙と「青い森の学校」……この世界、まだ何か隠れてるんですね。 続き、気になって仕方ないです🌙
57
782
nem*・゜゚・
881