テラーノベル
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ルーイ様が左手を挙げた瞬間、数秒も経たないうちに軍服を着た兵士たちに囲まれた。ネルとティナはその中で紺色のものに身を包んだ兵士に腕を拘束される。あまりに突然の出来事であり、ふたりは抵抗などできるはずもなかった。声すらも発せず、ただ驚愕の表情を浮かべるのみだ。
「大丈夫? ひっ……いや、ラリーにルーイ先生」
「ルイスさん」
私たちの前に現れた兵士たちの正体……それは、クラヴェル兄弟とフェリスさんだ。ルーイ様の送ったサインを確認し、すぐさま駆け付けてくれたのだ。
「俺とラリーに何かあったわけじゃないから心配しないで。フェリスさん、その子たちの腕も離してあげてね」
ネルとティナの腕を掴み、動きを封じているのはフェリスさんだ。サインが送られた時点でふたりを拘束するのは決まっていたのだろう。3人の無駄のない鮮やかな動きに感服してしまう。精鋭と呼ばれているクラヴェル兄弟はもちろん、フェリスさんもさすが王宮の警備隊である。
フェリスさんはルーイ様の顔を見た後、私の方へも視線を向けた。ルーイ様と私……双方に確認を取ろうとしている。本当にふたりを解放してもいいのかと念を押しているのか。
私はまだルーイ様がサインを送った理由がよく分かっていなかった。『予定が変わった』という彼の言葉を聞いていたが、いまいち状況把握ができていない。それでも、ネルとティナが私たちに対して危険行為をしていないのは分かっている。彼女たちの拘束を解くのは問題ないはずだ。
「フェリスさん、ふたりを離してあげて下さい」
私の言葉を聞いてフェリスさんはネルとティナの腕を離した。体の自由を取り戻したふたりだけど、恐怖心はいまだ払拭されていないようで瞳は涙ぐんでいた。いきなり警備隊の人間に取り囲まれたのだから無理もないが、先ほど私たちが会話の中で捕まるかもしれないと脅しをかけたせいで余計に怯えさせてしまったのだろう。
「驚かせてすまないね。とりあえず、このふたりから話を聞くことには成功した。でも、少々面倒くさい問題が発生してしまってね」
問題とは間違いなく『予言者』関連のことだろう。事件の背後にいるかもしれないと予想した黒幕の存在……ネルとティナの証言から、彼女たちの行動を操っていた者がいると判明したのだ。
面倒くさいというのは恐らく……ネルとティナがふたり揃って妙な術をかけられていること。魔法ではないとの事だが、ルーイ様もこの場で原因を究明するのは難しいと語っている。
「この子たちを俺らの目の届く所で一時的に保護したいんだけど……どこかいい場所はないかな?」
「保護……? 捕えるのではなく?」
レナードさんがネルとティナに鋭い目線を向ける。普段にこにこしてる人の睨み顔というのは迫力が凄い。これ以上ふたりを怯えさせるのは可哀想なので、彼を宥めることにしよう。
「レナードさん、彼女たちは捜査に協力してくれるのです。だからあまり手荒なことはしないで下さいね」
「ネルとティナは事件の首謀者かもしれない人物と接触しているんだ。今後そいつがふたりに対して何かしら手を下す可能性もなくはない。それを防ぐためにもこちらの監視下に置いた方がいい」
「……それって、バルカム司祭とはまた別の人間なんだよね」
ルイスさんの問い掛けに私とルーイ様は頷いた。司祭が事件に関わっているかはまだ分からないけど、ネルとティナに直接指示を与えていたのは司祭ではない。
『予言者』……未来の記憶に加えて、ネルとティナの言動を縛るなど特殊な能力まで保持している。かなり危険な人物だ。ルーイ様の言うように、私たちと繋がりを持ってしまった彼女らをこのまま放置しておくとは考えにくい。下手をしたらこの後、私たちが聖堂からいなくなった瞬間に……なんて事もあるかもしれない。そうか、だからルーイ様はサインを送って皆を呼び寄せたのか。予言者に介入される前にふたりを保護するために……
「……わかりました。とりあえず、このふたりの身柄は二番隊で預かります。軍の詰所がここから近い場所にありますから。皆さんは事の経緯を殿下に報告して下さい」
「了解。正式な対応が決まったらすぐに連絡する。よろしくな、フェリス」
「ルーイ先生。殿下のご指示が出るまで、このふたりは二番隊で保護して貰うことにします。あそこなら女性隊員も多いですので、対応についても心配いらないでしょう」
「うん、ありがとう」
「養護施設への連絡とかはベインズに任せるか。嫌だけど……」
ネルとティナの意向は無視してどんどん話が進んでいく。まあ、文句を言ったところで彼女たちに拒否権はないんだろうけど……
心情を思えば気の毒ではあるが、軍で保護してもらった方が安全であるのは間違いない。今の私にできるのは少しでも不安を減らせるように言葉をかけてあげるくらいだ。
「ネルさん、ティナさん。怖がらなくても大丈夫ですよ。これは、あなたたちを捕まえるのではなく、危険から遠ざけるための処置ですから」
「……危険って、私たちどうなるの?」
「故意でないとはいえ、君たちふたりは犯罪の手助けをしてしまったかもしれないんだ。これからもっと詳しく事情を聞かなくてはならないし……君たちの体に催眠術以外の細工が施されているかもしれない。だから、大人しく俺たちについてきてくれると助かる」
「えっ……そんな……」
安心させるどころか、更に恐怖を助長させてしまった。捕まるかもしれないという不安に加え、命の危険まで示唆されてしまったのだ。ルーイ様……もっとこうぼかして説明してほしかったな。やっぱりこういう所は容赦がない。
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