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翌日、十五番街に於ける成果は速やかにシャーリィへと伝えられた。これはレイミとシャーリィが互いに持つ水晶による通信連絡によって迅速な情報共有が行われた結果である。

これを受けてシャーリィはこの日館から出ないことを決意。ダンジョンには潜らず、セレスティンを傍に置いて政務に専念することとなる。

理由としては、終始落ち着きの無かったアスカの事が気がかりとなった為である。故にシャーリィは不測の事態に備えて待機することとなったのである。

「まあ、溜まりに溜まったこの山を駆逐する意味もあるのですが」

「お嬢様、お手が止まっておりますぞ」

「はい」

今年は三者連合、スタンピード、そして『血塗られた戦旗』との抗争と戦いが続いており、それに伴って処理すべき案件も膨大となった。基本的にはセレスティンが処理を行うのであるが最終決済だけはシャーリィがせねばならず。

結果、山とかした書類を片っ端から読んで内容に問題がなければ自身のサインをすると言う作業を朝から延々と繰り返しており、既に陽は高く登り、真夏の強い日差しが黄昏の町を照らしていた。

「レイミには感謝ですね。館の中だけは快適ですから」

「これに慣れては身体を弱めましょう。定期的に外へ出ることも命じております」

「流石はセレスティンです」

「勿体無いお言葉」

シャーリィの賛辞にセレスティンは一礼する。

真夏を迎えるに辺り、領主の館など主要な施設にはレイミが溶けない魔法の氷柱を産み出して室内の邪魔になら無い場所に配置。

冷気で室温を下げて快適な空間を作り出していた。ただし、いわゆる夏風邪にならないよう定期的に身体を暖めるなどの注意も添えた。

「しかし、抗争の最中に書類仕事をしていても良いのでしょうか?皆が身体を張っているのに、私は安全なここに居ます」

「このような時期だからこそ、普段と変わらぬ姿勢が大事なのでございます」

「この時期だからこそ?」

「左様でございます。常に先頭に立とうとされるお嬢様のお姿は、感嘆の極みでございます。しかしながら、お嬢様は『暁』を、皆を率いるお立場。腰を据えて、配下の者の働きに一切を委ねることもまた肝要でございます」

「むぅ……」

「御納得頂けない様子ではございますが、これはお嬢様の御身を想う爺めの我が儘でもございます。何卒」

静かに頭を下げるセレスティン。

組織を率いる立場として、軽率な振る舞いを戒める忠臣の諫言に、シャーリィもそれ以上反対すること無かった。

「分かりました。ですが、事態が急変したら動きますよ?」

「御意。さて、そろそろ良き時間でございます。昼食は如何なさいますか?」

「ここで食べます。まだまだお仕事もありますからね」

「御意にございます。さっ、中へ」

「失礼致します」

セレスティンが声をかけると配膳車を押した家政婦が二人入室し、手早く昼食の用意を始める。

「準備が良いですね」

「お嬢様がこのままここで召し上がるかと愚考致しました」

「お見事です、セレスティン」

「勿体無いお言葉でございます」

同じ頃、度重なる攻撃で『暁』にダメージを与えている『血塗られた戦旗』ではあったが、散発的な攻撃は戦果の拡大を行えず被害も割に合わないと考える者が現れ始めた。

特に幹部達は、目に見えた戦果を挙げねば傭兵達が組織を離れるのではないかと危惧していた。傭兵集団である悲しさである。

十五番街にある『血塗られた戦旗』本部では、激論が交わされていた。

「だから、奴等はこの町を狙って来やがった!守りを固めなきゃ縄張りを滅茶苦茶にされるんだぞ!?」

リューガが自分の方針を主張する。十五番街では『暁』工作部隊と火消しを担当する聖奈達の間で熾烈な攻防が繰り広げられていた。

そんな彼を相手に冷めた眼を向けるのは『血塗られた戦旗』幹部であり、稼ぎ頭の一人であるパーカー。茶髪に左目の無い隻眼細身の男。

傭兵として長年活動し、確実に依頼を達成するが目的以外にも余計な被害を出してしまう悪癖の持ち主でもある。その為“壊し屋パーカー”の異名を持つ。

「アンタらしく無ぇな、リューガ。此方が攻め込んでるんだ。やり返されるのは当たり前の話じゃねぇか。何ビビってやがる」

「なっ!俺は別にビビってるわけじゃ!」

「潜り込んでるネズミは、スネーク・アイん所の小娘に任せりゃ良い。俺達はチマチマ戦うんじゃなくて、派手にやるべきだろう?武器も充分に揃ってんだ。成り上がりの新参相手にビビってんじゃねぇよ」

パーカーの言葉に周りの傭兵達も頷く。既に少なくない被害を受けているのだ。散発的な攻撃ではなく大攻勢を掛けて大打撃を与えたいと言う想いも強かった。

「だが、それが失敗したら後が無いんだぞ」

「相変わらずの心配性だな。安心しろよ、俺のチームに何人か手の空いてる奴を回してくれたら良い。もちろん武器弾薬は充分に貰っていくぜ?」

リューガは考えた。確かに士気を考えれば攻勢も悪くはない。

パーカー率いる傭兵団は数も多いがやり過ぎて何かと苦情を抱える厄介な連中である。それに、何かと意見の対立を行う相手でもある。仮に失っても個人的には痛くもない。

そんな彼の打算が攻勢するべきと言う想いを後押しした。

「そこまで言うなら、俺は止めねぇよ。手が空いてる奴にも声を掛けるし、武器も渡す。ただし、様の無ぇ姿を晒すなよ?うちの看板に泥を塗るよう真似だけは赦さねぇからな?」

「はっ!俺を誰だと思ってやがる?心配性なてめえはここでビクビクしながら待ってな。調子に乗った小娘の首を見せてやるからよ。行くぜお前らっ!」

「「「おうっ!!!」」」

傘下の傭兵達を率いてパーカーは部屋を出る。

「良いのか?腕は確かだろうが、黄昏の町は防備も厳重だ」

それを黙って見ていたジェームズがリューガに言葉を投げ掛ける。

「このままじゃ士気に関わるのは確かだからな、此処等で目に見えた戦果を挙げたい。ネズミ狩りは順調か?」

「聖奈が愉しそうにしてるって事だけ伝えとく」

「それは良い。堅気にだけは手を出さねぇようにしてくれよ?うちの信用問題になるからな」

「聖奈は強い奴しか興味が無ぇさ。堅気に手を出すことはあんまりない」

「確実じゃ無いのか?」

「アイツを完全に制御できる奴なんてこの世に居るのか?」

「……居ねぇだろうな。これから俺はスポンサーと会う。口うるせぇ奴だが、金は大事だ。留守は任せたぜ」

「ご苦労なことだな、精々もっと金を引出してこいよ?」

「分かってる。何をやるにしても金は大事だからな」

そう言いながら部屋を出るリューガ。それを見送り、壁に背を預けたまま佇むジェームズ。

「殺し屋で雇われの俺に留守を任せる、ねぇ。俺が裏切ってたらどうするつもりなんだろうなぁ」

その異名である獲物を狙う蛇のような目で扉を見ながら呟かれた言葉は、誰の耳にも届かなかった。

暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~

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