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それから二日間、十五番街でも黄昏でも戦闘は行われず抗争開始以来の静けさが訪れていた。
だが、十五番街では明らかな変化もあった。二日間の間に小規模な武器庫らしき場所を襲撃したレイミ達であったが。
「これは……」
「もぬけの殻ですね。ここに蓄えられていた武器弾薬は何処に運ばれたんでしょうか?」
「エーリカ、ラメルさん達にこの事を伝えて。私はお姉さまに伝えるから」
「はい!」
襲撃チームからの連絡を受けたラメルは、消えた武器弾薬が何処へ流れたか調べるために注力する。
そして、同時に政務に励むシャーリィにもレイミから連絡が届く。
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。昨日に続いて政務に励んでいると、レイミから連絡はがありました。
「もぬけの殻ですか」
『はい、お姉さま。痕跡から考えても決して少なくない量が運び出されたと推定できます。もちろん先日の攻撃で場所を移した可能性もありますが』
水晶に映るレイミには不安が浮かんでいますね。それにしても、もぬけの殻ですか。
「或いは、何らかの攻撃の兆候であると考えるべきでしょうか?」
『断言は出来ませんが、攻勢を警戒する方が建設的です。ラメルさんが更に調査をしてくれていますが、状況から考えて後手に回ってしまうでしょう』
「ですが、レイミ達が見付けてくれたので警戒することが出来ます。レイミはどう想いますか?」
『彼らは数日間で此方に相応の被害を与えましたが、比率としては割に合わないでしょう。そして彼らは傭兵集団としての側面があります。つまり、何らかの勝利を収めなければ士気が下がり組織が瓦解する可能性もあります』
ふむ、確かに傭兵集団ですから組織への忠誠心も期待できないでしょう。むしろ、彼方が攻勢を仕掛けてくるなら望むところです。決定的な敗北を与えれば、間違いなく士気が下がり離反者が出始めるでしょう。
『お姉さま、私達も黄昏に戻りましょうか?』
おっと、レイミが心配してくれていますね。不安にさせないようにしないと。
……うん、笑えている筈。
「大丈夫ですよ、レイミ。此方は此方で対処します。むしろ、敵の攻勢で此方の攻撃が疎かになってはいけません。引き続きラメルさん達を手伝ってあげてください」
報告では、また二人被害が出たそうです。現地協力者だったみたいですが、手痛い打撃であることに変わりはありませんからね。
『分かりました。何か分かり次第直ぐにお伝えします。セレスティン、聞こえてる?』
「ここに、レイミお嬢様」
私の傍に控えていたセレスティンが答えます。良く傍に居るって分かりましたね?
『セレスティン、お姉さまの事をお願い』
「この身に代えましても」
『貴方が死んだら私は泣くわ。セレスティンも無事で居ないとダメだからね?』
「お言葉、必ずや」
セレスティンが恭しく頭を下げていますね。
「レイミの言う通りです。寿命以外で死ぬことは赦しませんよ?」
寿命だけは、どうにもなりませんからね。とはいえ、セレスティンも良い歳です。そろそろ楽隠居をさせてあげたいんですけどね。
「勿体無いお言葉でございます」
『お嬢様も無理をなさらないようにお願いしますね?』
「レイミもですよ。危険と判断したら逃げてくださいね」
レイミとの通信を終えた私は、セレスティンに視線を向けます。
「どう見ますか?セレスティン」
「お嬢様方の予測は正しいかと。傭兵とは本来報酬を得て働く事を生業としております。組織に命を賭けるような真似をするとは思えませぬ」
やっぱり大攻勢が近いと考えるのが建設的ですね。そうなると、より防備を固めないといけません。
「セレスティン、マクベスさんを呼んでください」
「畏まりました」
しばらくすると、カーキ色の軍服を身に纏ったマクベスさんがやってきました。
「マクベス!お招きに応じて馳せ参じました!」
見事な敬礼をしてくれたので、此方も立ち上がって答礼しました。私は軍人さんではありませんが、問題はないでしょう。
私が座ると、マクベスさんも敬礼を止めて直立不動になりました。
「お忙しいところ呼び出してごめんなさい。マクベスさんに伝えたいことがありまして」
マクベスさんは大損害を受けた暁戦闘部隊再建のため奔走しています。
人員だけは最盛期の150%まで回復したみたいですが、これから訓練と適正を見極めての振り分け、全体の再装備を進めなければいけませんからね。
「はっ」
「杞憂で済めば良いのですが、敵の大攻勢が迫っている可能性があります。速やかに備えなければいけませんが、戦闘部隊の状況は?」
「はっ。誠に不甲斐ない状態であります。新兵達の訓練はようやく基礎体力訓練に区切りが出来たレベル。まだ実戦に投入するわけには参りません。無理に投入しても、烏合の衆となりましょう」
まだ訓練を開始して一ヶ月ですからね。最低でも半年は無いと一人前にはならないのだとか。
「ふむ」
「しかしながら、特殊技能兵は健在であります。敵が小手先の手ではなく真正面から挑んでくるならば充分に対抗可能です」
特殊技能兵とは、歩兵と違い特殊な技能を必要とする兵士で砲兵や戦車兵等を指します。
「砲兵隊と戦車隊は無傷でしたからね」
ただ戦車、マークIVですか。これは大きすぎて使い勝手が悪いんですよね。『ライデン社』が次世代の戦車を開発しているみたいなので、その先行試作品を購入することが既に決定しています。
「更に機関銃部隊も健在です。敵の接近を察知できれば充分に戦えます。歩兵部隊も残存戦力を纏めればそれなりの戦力になります。幸い、お嬢様が幹部の皆さんを警備に回して下さったので余裕がございます」
「では、各方面の陣地を強化して攻撃に備えましょう。これまで以上の警戒体制を維持しつつ待機してください」
「はっ!では私は指揮を執るため司令部にて待機します!」
相変わらず見事な敬礼をしてマクベスさんが部屋を出ました。
「問題は、相手の戦力ですね。戦車はないと思いますが、機関銃とか大砲はあるかもしれませんね」
「彼らは傭兵ですからな、野戦こそが本命でございます。それらの装備を有していても不思議ではありませぬ」
大攻勢は歓迎すべき事ですが、明らかにこれまで戦ってきた相手より練度も高く装備も優秀。被害を覚悟しなければいけないでしょう。
また大切なものを失ってしまう。そう考えると憂鬱です。
「今は耐えねばなりませぬ。『血塗られた戦旗』を退ければ、我々手を出す敵も少なくなりましょう」
「そうですね……組織を大きくして、舐められないようにしないと」
今は新参ものだから挑む敵が多い。ですが、一定の勢力となれば手を出すことを躊躇するでしょう。ここが正念場です。