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「彼ったら時間を守らないの!」
かなり不機嫌な顔をして喫茶店に入ってくるなり、ひとみは私のほうを見てそう言った。
ひとみは仕事仲間の一人で、私とは馬が合う。――と、私は思っている。もっとも、それが本当かどうかは分からない。
ただ、こうして時々、彼女のお気に入りらしい喫茶店に入り、美味しいと思っているコーヒーを飲み、好きだと勘違いしているケーキを口にする。この時間が、彼女なりのストレス解消なのだろう。
「彼女にとっては、だけど」
私がひとみと、昔からの友人のような距離で付き合うようになったきっかけは、特別なものではない。半年ほど前、社内プロジェクトが同じになり、ついでに住んでいるマンションも近いと分かった。ただ、それだけだ。
プロジェクトが終わってからは、社内で顔を合わせることもほとんどない。だからこそ、こうして会うには都合のいい関係でもあった。
ひとみは数か月前から彼氏と付き合い始めたらしい。相手は同い年のサラリーマン、という情報だけは聞いていた。
「ねぇ、聞いてるの?」
真剣な顔でこちらを見るので、私は目を閉じて小さくうなずく。
「聞いてるよ。時間を守らないんでしょ?」
「そう。デートも、食事も。何もかもよ。約束したことを、何一つ守ってくれないの。……まったく。付き合い始めのころは、君を裏切らない、なんて言ってたくせに」
話を聞きながら、私は少しだけ記憶をたぐり、そして微笑んだ。
彼の両親の仕事が、政治家だったことを思い出したからである。