本当に、殺されてしまうだろう。中年男性の叫びが頭に真実味を帯びて響き渡った。そう思うと……体に凄まじい緊張が走った。
私はテレビ頭から目を背け、片手でライフルを握っている手の力を緩め始めてしまった。隣では背筋をピンとした呉林がライフルを構えていた。
「撃つわよ!」
呉林はそう叫ぶと、テレビ頭の中心に向かって、一発撃った。辺りに「パーン」という大量の爆竹が破裂するような轟音が鳴り響く。弾丸は命中した。だが、頭のテレビ以外から血が大量に噴き出たが、テレビ頭は何ともなかったように走り続ける。
もう一度、呉林は必死の形相でテレビ頭に向かって撃った。
こんどは、弾は当たらなかったようだ。
呉林はさすがに慌てだした。
「赤羽さん! お願い! 撃ってちょうだい!」
ライフルを幾度も構え直しながら、呉林は震えだした。
私は、立ったままで目の前の迫り来る恐怖に必死に抵抗していた。
「お願い! 当たって!」
呉林はまた撃つ。
今度は命中した。だが、テレビ頭は一瞬よろけただけだった。
すでに、テレビ頭が目前に迫っていた。
呉林へ片方の手を伸ばすテレビ頭の動きは、殊の外酷くゆっくりだった。
私が逃げの態勢を取った。
呉林の逆の手を握り、走り出す。
テレビ頭の方が速かった。
呉林の片腕を掴んでハンマーを振り上げた。
私は尻込みした。
だが。
超スローモーションの世界で、私は呉林を庇うかのように動きだしていた。何のことはない。身体が勝手に動いていたのだ。ダッシュの態勢と尻込みから復帰した私は、背を伸ばすと同時に……その刹那、私の意識の片隅にはライフルがあった。静かに呉林の重たいライフルを片手でもぎ取り、目の前のテレビ頭のテレビの真ん中に狙いを定めた。
パーン!
気がつくと、私は撃っていた。物凄い大きな破裂音が辺りに鳴り響く。テレビ頭のテレビに弾が着弾して大爆発をした。火花を散らし、同時に大量の血液が辺りに散らばった。
頭部から血液を上げ、テレビ頭はあっという間に、倒れ込んだ。至近距離では一溜まりもないだろう。それにしても、この頭に乗っかているテレビから多量の血が吹き出ているが……。
「やったわ! さっすが赤羽さん!」
呉林は、私の肩を喜んでバシッと叩いた……左肩を。
―――
「御免なさい。私ったら。嬉しくてつい……御免なさいね」
呉林の顔がドアップだった。私の頭を膝枕にしてくれていた。
やっぱり綺麗な人だ。
私はどうやら倒れているようだ。……左肩から発する痛みで一瞬気を失ったのだろう。
「テレビ頭は?」
力なく私は呉林に尋ねた。
「壊れたわ。それより、立てるかしら」
「ああ。出血がひどいな。けど、家に帰りたいんだ」
私は本音を吐く。
あのオンボロアパートへ帰りたかった。
「大丈夫?もうそろそろ元の世界へ戻れるかもしれないわよ」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!