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呉林は、こんな私に優しく言った。
「本当に?」
「そうよ。私、感じるの」
それを聞いて、私は必死にライフルを杖に起き上がり、呉林と囚人房へと向かう。私はライフルの弾がまだあるか調べようとした。が、やり方が解らなかった。
「どうしたの?」
呉林は、首を傾げる。
「このライフルの弾で牢屋を開けるのさ。簡単だろ」
私の中で何かが弾けた。
それは、こんな恐怖から生還したいという執念? 意地?
生まれて初めてだった。
あるいは、数百社に履歴書を送った時の高揚する気持ちに似ているのかも知れない。
「なーるほど」
私は左肩の出血や痛みをしばらく気にしないことにした。あんな体験をしたので、人助けが楽に思えてならなかった。ライフルの弾はまだきっとあるだろう。
長い通路がかなり苦痛になる頃には、処刑場から二人がいる囚人房にたどり着けた。気を失いそうな精神に、開け放たれた扉からまた歌が聞こえる。
囚人房にやっとの事で入ると、
「君。その肩の怪我は大丈夫なのか? さっきのテレビ頭め」
中年男性が同情の眼差しを向ける。私はかなり疲れているので、その言葉を気にせずに二人を牢屋の奥へ行かせ、片手でピカピカの鍵をライフルで撃った。見事二人の牢屋の南京錠が壊れて開く。
中年男性は力強く立ち上がり、
「やったぞ! さあ脱獄だ!」
寝間着姿の中年の男性は牢屋から出られる喜びで意気込んだ。
「外はどこですか?」
青年は及び腰で、ゆっくりと立ち上がった。
「その前に名前が解らないとあれなんで、自己紹介しましょうよ。私は呉林 真理。二十歳の大学生よ。それと銀座で呪い師をしているの。そして、こちらの男性は赤羽 晶さん。26歳。株式会社エコールで働いているの」
呉林は私の代わりに自己紹介をしてくれた。……あの……アルバイトなんですけど……。正社員に聞こえる。私は中年の男性と若い男性に、青い顔でふらふらながら軽く手を振った。
若い男性は少し頭を下げて、
「鍵を開けてくれてありがとうございます。とても感謝してます。僕の名前は渡部 勉。東京の音楽大学の大学生で19です」
と、最年少で震える声。私の怪我を見てその恐ろしさと、この場所に混乱しているのだろう。
端整のとれた顔をしていてさらさらとした茶髪をしている。髪は長め。背は長身で、私と同じくらいだろう。それと、落ち着いていて控えめな丁寧な人である。